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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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エルシウス・ベルシュタインという男

エルシウス・ベルシュタインという男

「これはレオポルト殿下。てっきりコアルシオンの方へ向かわれるものと思っておりましたが.....我が領へ何か御用ですかな?」

突然の王族の訪問にも一切動揺を見せない男、エルシウス・ベルシュタイン。 

無表情の彼が何を考えているのか、推し量るは容易ではなかった。

「ああ。話があるのは貴殿だ。ベルシュタイン辺境伯。」

「私にですか....それはまた珍しい。奥に入りましょう。」

奥の間に入ったエルシウスはレオの目的を理解しているのか。

「単刀直入に聞く。娘の件についてはどう思われている?」

「娘ですか。よもや火を放って逃げ出すとは。残念でしたよ。」

やはり知っていたか。これで一つ難しくなる。

「よく追っ手を出しませんでしたね。」

「あの娘は聡明だった。実に上手くやった。混乱に乗じて使われていない倉庫に隠れ、騒ぎが収まってから家の裏を抜けて出て行った。」

「そこまで調べたのですか。」

「焼け跡から骨が出て来た。それもご丁寧に4人分。最初信じそうになったがよくよく見たら動物の骨だ。」

「何故家を出ることにしたのかはご存知で?」

「あの愚かな妹がイザークを暗殺しようとしたのだそうだ。これを機にあの娘以外の家族を処分出来たものを.....まあそれがあの娘には出来なかったんだろう。情の厚さだけが欠点だった。して?その娘がどうかされましたかな?」

ベルシュタイン辺境伯は多く語るタイプではない。本人なりに思うところがあったのだろう。

「その娘が見つかったとしたら?」

「ここを出たあの家族がロクな生活をしたとは思えん。令嬢としては使い物にならないだろう。火を放ったところにわざわざ戻ってくるとも思えんが。」

「ではその娘に私が結婚を申し込みたいと言えばどうだ?」

つまらなさそうだったエルシウスの目の色が変わる。

「ほう......。そういうことですか。どこで出会われたので?」

「市でハープを弾いているところを見かけて惚れた。だが村娘にしてはあまりにも品があり教養もある。ましてや剣の腕まで立つというではないか。何もないと考える方がおかしいというもの。調べさせてもらったらそちらの家が出て来たのでな。」

「この辺境にいては大した噂は聞こえてこない。それでも聞こえて来たのは王弟殿下が楽師に入れ込んでいるとの噂......それが。」

「ああ。セラ....セラフィーネだ。」

「私としても王家との婚姻関係で受ける利益の大きさはよく理解しているつもりです。だがあの娘には問題があり過ぎる。火を放ち、恐らくは傷も持つ姫など庇いたくとも庇えない状態だ。」

「火の件に関しては王自ら不問とするとの判断が下っている。傷などドレスで隠せるレベルだ。こちらとしてもこのように突然の申し出。何も条件を出さず申し込むのも礼に欠くと思い考えて来た。

1つ目に辺境伯の格を上げて侯爵とする。

2つ目に王家直轄の交易路をベルシュタイン領に通す。

3つ目王族後援による防衛費の援助。

これではいかがかな?」

「ふむ....そこまでなされるとは我が娘に相当な思い入れがあると見える.....。では私の方からもいくつか条件を。

娘の帰還に際して多くの噂が飛び交うでしょう。ですので王宮をお借りして帰還を祝う舞踏会を開きたいと思うのです。

それから....王弟殿下は今からコアルシオンに行かれるとか。」

「ああ、そうだ。」

「でしたら全てうまく行った暁にコアルシオンとの交易権をいただきたいのですが。

そうすれば私どもの方としても紛争時ベルシュタイン軍は王弟軍への優先派遣、ベルシュタイン家の開発中宿場町の共同統治権、コアルシオンとの窓口としてベルシュタイン家が特使・仲介役を務めましょう。」

「....正直それ程の好条件で飲んでもらえるとは思っていなかったが。」

「ええ、ですからお互いにこれらのうちどれか一つでも破られればこの婚約はなかったことに。」

読めない。今出した条件から見て確実に利益になるのはベルシュタイン家だ。それをそのうちの一つが無理だったくらいでなかったことにとは。

「一つでも....」

「ええ。娘は今どこに?」

「.......重傷を負い、治療中だ。1ヶ月はまともに動けまい。」

「.....それはどういう意味です?」

無表情だったエルシウスに苛立ちの声が含まれた。それが娘を心配してか、使えぬ駒の心配をしてかは分からない。

「仮面の男....我々はアイルデール卿だと目をつけている。麻薬や賊の件の黒幕も彼だろう。やつは恐らく私を使い、戦争を起こすのが目的だ。私のアキレスであったセラが狙われ、捕まったが命からがら逃げ出したセラは崖から転落し、重傷を負った。」

「......あの娘らしい。では殿下はコアルシオンに向かわれた方が良いでしょう。娘はこちらで引き取ります。」

「お気遣い、痛み入る。だがセラは意識が戻ったばかりで後1週間ほどは動かせない。私がコアルシオンに行く道中で降ろして行くことになるだろう。」

「こちらとしても受け入れの準備をせねばならん。丁度良いだろう。」

「......私のせいでセラは傷ついた。どうか、よろしく頼む。」

「王弟殿下がこのような情に溢れた方とは知りませんでしたな。条件、お忘れなきよう。貴方がコアルシオンより無事帰り、交易権が得られなければこの婚約は無しだ。」

何故、これにここまでこだわるのかはわからない。試されているのなら。

「必ずや、全てを解決し、交易権を手に入れて参りましょう。」

「ええ。お待ちしていますよ。」

奥間から見送りを受けると外にはイザークが待っていた。

「殿下、お久しぶりでございます。」

「ああ、久しぶりだな、イザーク。」

「セラの、ことでしょうか。」

「.....中々に勘がいいな。」

「殿下は離れのセラの音を気に入っておいででした。数年後、わざわざここに来るほどには。」

「まさか本当に会うとは思っていなかった。運命の巡り合わせというものかもしれないな。」

「.....私は、セラに幸せになって欲しいと思っていたのです。」

「セラはイザーク様を裏切った、顔を見る資格もないと言っていたがな。」

「真面目な子です。強すぎる責任感と優しさがあの子を殺す。」

「お前がいればいくらか安心できる。俺がセラのそばにいてやれない間、頼んだぞ。」

「もちろんです。やっと正式に妹として出迎えられるのですから。」

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