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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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貴方と、行きたかった海

貴方と、行きたかった海。

掴んだ手の主は、気がかりだったその人。

「何故.....ここに」

「セラ......頼む、どうか戻ってくれ。」

「ですがレオ様、私はもう十分生きたように思うのです。」

「分かってる....お前は十分生きた。苦しみ続けるお前を見るくらいなら、このまま渡らせてやる方がいいと思ったよ。」

「ならどうして....」

「....俺の、醜い我儘だ。もう一度だけ、お前に触れて、愛することを、どうか許してくれないか。」

「ですが.....私は少し、疲れてしまったみたいです。」

「ああ。だから。俺の元で、俺の腕の中で、休んで欲しいんだ。」

...だから、嫌だった。あの気がかりだった顔を見ればなかったはずの未練が隠れでもしていたかのように顔を出す。

レオの元で、レオと共にいるのは私の願うこと。

だけどそれは同時に、またあの地獄を背負うということ。

それでも私は、この人といたいと望むの?

顔を上げれば泣いている目が見えた。

私が人前で泣くことがないように、この人だって誰の前でも泣かない。

私がこのまま行けば、この人はずっとこんな顔をするんだろうか。

それは少し困る。貴方が、幸せでいられないなら死んだ後、後悔してしまうじゃないか。

間近に見える草原は美しい。あそこで横になればきっと得られなかった平和が訪れる。でも――――

その隣に、この人はいない。

(あ、海.....)

まだ行ってない。本当は、誰よりもこの人といきたかった。

振り返った向こう岸の草原をもう一度見た。そこは私が願い続けた安息の地。

(折角行けると思ったのにな....)

腕を掴む手を取った。

俯き涙の流れている顔がこちらを見た。

「......帰りましょう。」

川から出た足は、不思議と濡れていなかった。

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