美しき川の誘い
美しき川の誘い
美しい、川が見えた。
広い草原を2つに隔てる澄んだ川。
川のせせらぐ音だけが聴こえる静寂の中で、感じたのは平穏だった。
川に足を入れたら心地良さそうだと思った。冷たい水は、身体を浄化していくようだ。
最後見えた彼の顔は焦燥と悲しみに満ちていた。それだけが、気がかりだった。
よく生きた。今ならそう思える。痛かった。怖かった。殴られた時も、切られた時も、母が嫉妬と嫌味を常に向けてきた時も、男に手を掴まれた時も。
生まれてしまったことは変えられない。それならばせめて生まれたことを後悔しないように。
そう願って生きた。けれど。
私は間違っていたんだろうか。父の家に残るべきだったのかもしれない。ベルシュタイン家に残るべきだったのかもしれない。
だけどそうしたら、私の守りたいものは守れなかった。重ねた罪を、償うことはきっと許されない。こんな私が、最後貰ったものは私の罪を更に重ねてしまう物だったんだろう。それでもいいと思った。愛しい人に触れられて、愛された時間は苦しみに満ちた人生の中で見た、唯一の光だった。その光の元に戻りたいとおもった。だから崖から飛び降りた。だけどもう――――
もう一歩。川を進んだり光の反射する水面はあまりにも美しく、その先へ進みたくなる。
反対側の岸まであと数歩。ふと後ろを振り返った。未練はない。
「さようなら」
川を上がろうとした。その時だった。誰かの手が、私の腕を掴んだ。




