抱いた僅かな命の灯火
抱いた僅かな命の灯火
「殿下!あれ程勝手に出てはならな........」
主が抜け出した。帰って来たら怒らねばならないと思っていた。
そしてその言葉を続ける気にはならなかった。
血と傷に塗れたセラ様を抱き、絶望に染まった目をした主を見てしまったら。
「直ぐに医者を呼べ。」
「はっ」
医療のことなど大して分からぬクシェルが見ても重症なのは明白だった。服自体は返り血に塗れているもののぐったりとした身体と背中に見える切り傷。
熟練された医官が難しい顔をしている。
「酷い傷だ....肋骨にヒビ、背中と腕に切り傷。その上高熱まで....崖から飛び降りでもしなければこんな傷にはなりませんぞ。」
「その通りだ。崖から飛び降りた。薬にも、何にも糸目はつけなくていい。使えるものは全て使って治せ。」
「こんな華奢な女性がですか。何という無茶を.....殿下、私は医師として最善を尽くします。ですが、必ず助かるとは申し上げられません。」
医師の残酷な言葉は輪郭もなく浮かんでいた考えを現実にしてしまう。
主は、何も言わなかった。




