罪が揺らした、明日への気配
『お前が16になったら、俺と共に戦に出ないか?』
『それは...身に余る光栄ですが、よいのでしょうか?』
『父には相談し、許可をもらってある。お前が妹として俺の軍に加われば軍の力は強まるだろう。』
イザーク様は、優しい方だった。言葉は少なくとも、気にかけてくださる方だった。イザーク様に、どこか思慕の情のようなものを持っていたのかもしれない。だからこそ、その誘いは嬉しかったのだ。
『セラ、裏切ったな。』
イザーク様の、冷たい顔。違う、これは幻覚だ。彼はそんな顔はなさらない。
『イザーク様、違うのです。これはーーーー』
『お前に、家を跨ぐ資格はない』
叫ぼうとして、目が覚めた。
気づけば日が暮れかかっていた。木にもたれたまま、眠ってしまったようだ。早く帰らねば道がわからなくなる。
(あんな夢を見るなんて....)
久しく、見ていなかった夢。賊との戦いで戦を思い出したか。
村の近くまで来た時、乾いた血の匂いが鼻を掠めた。そうだ、忘れていた。このまま帰ればエレンが卒倒してしまう。
『セラ姉!また怪我したの?』
こだまするのはライの声。旅に危険はつきものだった。
『セラ姉は守ってばかりだ。いつか俺が守れるくらい強くなるからね』
ライは知らない。守るものがいなければ私は強くはなれなかった。あの状況にも、耐えられなかった。
「ライの存在に、私は守られていたんだよ」
そんなことを言っても、貴方は信じないだろうけど。
心配をかけるのは本意ではないが皆が寝静まる夜を待ってから家に入った。
炉にスープが置いてあった。テーブルの上には拙い文字で書かれたメモ。
[セラ姉、食べてね]
何とも可愛らしい文字に張り詰めていたものがふと緩んだ。その瞬間に鳴るお腹は正直だ。
そういえば何も口にしていなかった。スープで満たされたお腹は満足すると衣を洗う。
(これ以上西となるとべルシュタイン家の領地になってくる...ライがまさか行くはずがない。)
それならばやはりめぼしいのは王都か。
かの人も2週間以上来ぬ旅人を待ってはいないだろう。そろそろ稼がねばならない。
明後日にでも市に出てみるか。
吹き抜ける風が窓を揺らす。
何かが動き出す予感がした。




