音が導いた邂逅
いつものようにフードを深く被り、市に出てハープを鳴らす。一音。深く響かせれば集まる人々。
弾き終えると足元には銭。そして銭を持って子供達のために菓子を買って帰る。
いつものように。そのはずだった。
「そこのお嬢さん」
背後に落ちる影。いつ現れた。声に敵意は感じられない。
これはいつもと違う。後ろを取られることなどない自分の背後を取るとは、何者なのか。
振り返れば服装は質素な男が立っていた。
「いい音だ。君、うちの楽師にならないか?」
その言葉に質素な服は見せかけだと気づく。軽やかな笑顔を浮かべながらも男の目はどこか冷たかった。
「申し訳ありませんが...お断りさせていただきます。」
丁重に断ると相手は意外にもあっさりと引いた。
「そうか。それなら仕方ないな...よくここに来るのか?」
「はい。5日おきほどで来ております。」
「そうか。ならまた聴きにくることにしよう。」
「ありがとうございます。」
あっさりと引いてくれたことは有り難かった。また来ると言って現れない人などザラにいる。
楽師になれば不自由が多すぎる。目的も果たせない。
「セラ姉、おかえり!」
「菓子は?」
「はいはい、分けて食べるのよー」
菓子を頬張る子供たちの笑顔はいつでも癒される。
元々滞在する予定のなかった村だった。気づけば半年以上になる。薬師のいなかったこの村は医療の知識を多少持つセラを喜んで迎え入れ、旅に戻ろうとするセラを引き留めた。
家に戻るとエレンが夕飯を作っているところだった。
「セラ姉、おかえり」
「ただいま。留守の間、何もなかった?」
「ブランとハールが来たよ。また喧嘩したんだって。」
「懲りないねえ。」
「ルディはセラ姉が来てから落ち着いたけど。」
「まああの子は他とちょっと事情が違うからね。とにかくご飯食べようか」
「うん」
エレンと話しながらこの村に着いた日のことを思い出す。
西へ向かうところだった。エレンが賊に襲われていたのは。妹の熱が治らず、薬を買う金がないために自ら薬草を取りに行こうとしていたのだった。
助けた縁で妹を診た。回復した妹を見たエレンはセラに弟子にしてくれと頼み込んだ。
エレンの姿を自分に重ねてしまい、つい受け入れてしまった。
(いい加減村を出ないといけないけどな...)
夕飯を食べるとエレンは家に帰って行った。片付けて薬草を整理し終え、ベッドに入るとふと市で会った男を思い出した。身分は高いようだが、あれだけ気配を消せるならば騎士か何かだろうか...
考えても仕方がない。次会うかどうかも分からないのだ。
思考を手放すと意識は次第に遠のいていった。
2人が巻き込まれて行く物語を見届けていただけたら幸いです。




