ひまわりの少年
仕事を失い、立ち止まった夏。
ひまわりの影に現れた少年が、忘れていた何かを思い出させる物語。
8月16日
実家に帰省して3日目
朝から空は白くかすみ、湿った風が畳の匂いを運んでくる。
風が止むたび、茹だった空気の底から土の匂いが立ちのぼった。
少し前に仕事をクビになったことをまだ誰にも言っていない。
山から聞こえてくる蝉の声がまとわりつく蒸し暑さを一層強くする。
あつい…
Wi-Fiもない家で数日を過ごすのは思っていたより退屈だ。
ギガは昨日の夜に尽き、スマホは光るだけのまな板となっている。
柱時計が刻むコンコンという音に囲まれて畳の上でごろりと横になっていると、
庭に植えてあるひまわりが目についた。
子どもの頃に植えたものだろうか。
暑さでへこたれている自分とは違い、ピンと花を空へ伸ばしている。
すると、数本のひまわりがゆらりと動いた。
風かな…
次の瞬間、ひまわりの影から火に焼けた少年の顔が覗いた。
目が合い、何かをこちらに言いかけるように唇を動かし、いたずらっぽく笑って走り去っていった。
反射的に「おい、危ないぞ」と声をかけ、縁側の先に置いてあった古びたゴム草履を履いて追いかけた。
ひまわりの奥には懐かしい小道があった。
草をかき分けて追いかけると気づけば、子どもの頃よく行った秘密基地に辿りついた。
朽ちかけた板と、釘の錆びた匂い。
腰を下ろすと、木の床が軋んで、あの頃の体重を思い出させる。
あの頃は、毎日何かを作っては壊して、でもそれで楽しかった。
ふと腕時計に目をやると、昼をとうに過ぎ、蝉の声もいくらか静まっていた。
立ち上がると風が通り抜け、汗ばんだ体がヒヤリとした。
遠くで母の呼ぶ声が聞こえて気がして、ゆっくりと庭の方へ歩き出した。
遅くなった昼食を終えて、縁側に戻ると、ひまわりの花が一段と背を伸ばしている。
その中に、もう少年の姿はない。
けれど、風に揺れる影が手招きしているように見えた。
「母さん、話したいことがあるんだけど」
最後までお読みいただきありがとうございました。
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