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短編集

月の夜に、声を殺して

作者:

何となく思いついたので・・・


 月の光が、海を銀に染めていた。

風はなく、波音だけが、夜の静けさを優しく、しかし執拗に切り裂いている。


 こんな時間にここへ来たのは、ただの衝動だった。

眠れなかったわけでもない。

ただ、心の奥底で疼く何かを、確かめたかった。

過去の記憶が、夜毎に私を苛む。あの柔らかな肌の感触、甘い吐息、許されざる衝動……。

でも、そこにいたのは――


「……久しぶり」


 潮の香りの中で、彼女の声が溶け込むように響いた。

まるで何事もなかったかのように。

まるで、あの夜の続きが今も息づいているかのように。

彼女のシルエットが、月光に浮かび上がり、胸の奥が熱く疼いた。


「どうして、ここに……」


 問いかけているのは私のくせに、声は震え、熱が身体を巡るのを抑えきれなかった。


 わかっていた。

私の心のどこかは、ずっと――この再会を、彼女の存在を、渇望していた。

彼女は黙ったまま、ゆっくりと歩を進め、すぐ隣に立った。

肩と肩が触れ合うほどの距離。

なのに、指先ひとつ分も空いているその僅かな隙間が、逆に欲情を煽る。彼女の体温が、布越しに伝わってくる。

甘い香りが、鼻腔をくすぐる。


「……ねえ、覚えてる?」


 彼女の声が、風よりも優しく、しかし鋭く胸を刺した。

言葉ではなく、記憶が波のように押し寄せてくる。

あの夜のこと。

声を殺して、息をひそめて、触れてはいけないものに手を伸ばしたあの夜。

抱きしめてはいけないはずの背中を、この手で強く抱きしめ、二人が融け合った記憶。

湿った熱が、私の指を絡め取り、彼女の喘ぎが耳に残る。


「……忘れられるわけ、ないじゃない」


 私の声もまた、震え、喉の奥が渇いていた。


 彼女の目が、月に照らされて揺れた。

何かが、泣きたそうに潤み、しかしその奥に潜むのは、抑えきれない欲情だった。

気づけば、彼女の手が私の頬に触れていた。

冷たいようで、あたたかい。

その矛盾が、彼女らしかった。

指先がゆっくりと首筋を滑り、シャツの襟元をくぐり込む。


 私の肌があわだち、彼女の爪が軽く引っ掻く感触に、息が乱れた。

「この夜だけで、いいから」

「もう一度、あのときの続き……しても、いい?」

答えなんて、最初から決まっていた。

月が見ているだけの、誰にも知られない世界で。

私は、彼女の唇に激しく触れた。舌を絡め、唾液を貪り合う。

声を殺して、心だけを叫びながら、彼女の舌が、私の口内を這い回り、甘い味が広がる。

手が彼女の胸に伸び、柔らかな膨らみを強く包み込む。

彼女の胸の先が布越しに硬くなり、喘ぎが漏れた。


 波の音が、すべてを覆い隠していた。

風のない夜だったから、服の擦れる音すらはっきりと聴こえ、興奮を高めた。

彼女の髪が、私の胸に落ちる。

その重みすら、愛おしくて、壊してしまいそうだった。

私は彼女のシャツを剥ぎ取り、露わになった白い肌を月光が照らす。

体の中心へと続く熱が、誘うように揺れる。


「……ねえ」


 吐息のような声が、耳にかかる。彼女の息が熱く、私の耳朶を湿らせる。

「私、あのとき本当は……」

言葉の続きを、私はそっと唇で塞いだ。


 真実なんていらなかった。

今のこの熱が、何よりも確かなものだったから。

代わりに、私の手が彼女のスカートをまくり上げ、パンティの縁に指をかけ、ゆっくりと引き下ろす。

彼女の体の奥が露わになり、月光に濡れた肌が光る。

すでに熱が滲み、指を滑らせると、ぬるく絡みつく。

「あっ……んんっ!」

彼女の声が、抑えきれず漏れ、腰がビクンと跳ねる。

冷えた砂浜の上に、彼女の身体をそっと横たえる。

白い肌が、月の光に照らされて、淡く、儚く、まるで夢の中の幻みたいに美しかった。

しかし、その美しさは淫靡で、私の欲望を掻き立てる。


 私は衣服を払って、彼女に身を重ねる。

ゆっくりと馴染んでいく。私の体の奥が熱を上がり、抱きとめ、呼吸が乱れる。

「はあっ……深い……!」

彼女の喘ぎが、波音に混ざる。

何度も夢で見た光景が、今、目の前にある。

重ねるたびに、高鳴りが跳ね、彼女の身体が震え、爪が私の背に食い込む。

胸元に口づけ、舌で探る。

そのたび声が高くなり、全身がきゅっと寄り合う。


「ああんっ! そこ……もっと!」


 私は彼女の脚を抱き寄せ、深く重なり合う。

汗と息が混ざり、月光が肌に滲む。

頂が近づき、彼女の身体が弓なりに反る。

「ほどける……もう、だめ……!」

彼女の叫びと共に、熱はほどけて、海の満ち潮みたいに、静かに満ちた。

指が彼女の手に触れる。

すぐに指先が絡まる。

彼女の瞳が、私を映して揺れた。

その中には、懐かしさと怖さと、どうしようもない想いが混ざっていた。

快楽の余韻で、頰が紅潮し、唇が震える。


「……ごめんね」


 私がそう呟くと、彼女はかすかに首を振った。

「謝らないで。これが欲しかったの。ずっと……ずっと、欲しかったの……」

ああ、また。

越えてはいけない境界を、私たちは越えてしまった。

しかし、その快楽は甘く、身体の芯まで染み渡る。


 夜が明けて、空が淡く染まり始めたころ。

私たちは、何も言わずに並んで歩いた。

身体に残る疼きと、互いの匂いが、まだ鮮やかだった。

砂浜には、ふたりの影がひとつに重なっていた。

まるで、何かを埋めるように。

彼女の指先は、まだ私の手を離そうとしなかった。

それだけで、もう充分だった。

だが、心の奥で、この夜の記憶が、永遠に私たちを繋ぐことを知っていた。


R17でかいたつもり?

たぶんもうR17は描かないかな

表現が難しいのとどこまでやっていいのかわからない


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