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執行猶予  作者: 乾 優弥
7/11

第7話 再会


翌朝になり早速、警備会社の上長に連絡して

急用が出来たのでまとめて有給休暇を取得したいと伝えた。


いつもは繰り越しで消える日数しか取らないので角が立たない言い訳を考えていたのだが、

あっさりと取得できたので拍子抜けした。


朝食は菓子パンを頬張ったが、昨日は色々あったので喉に通すのにかなり時間がかかった。


莉愛はベッドの上で爆睡している。彼女がいなかったらお金を前借りすることは出来なかったので本当に感謝している。


手早く外に出る準備をして、銀行へ向かう。


銀行で延滞金を追納してこれで一つの事が終わった達成感があったが、

むしろここから始まるのだと再認識した。



思い返せば人生に幸せなことなど何もない。

こうしてただ生きているだけでも罪は増えていく。無知であるだけでも罪なのだ。

囚人がこれ以上、罪を重ねても苦しいだけだ。

生きているだけで苦しくなる。

生きる意味とは一体なんなのだろう。


またいつもの考え事をしながら歩いていると

あっという間に風俗店の事務所に着ていた。


店長から一日でも早く出勤して欲しいと言われたので今日に講習やルールなど、

一通りの説明を受けてそのまま初勤務になり、

言われるままにワゴン車へ乗り込んだ。


車に揺られてる身体とは裏腹に、

こうなればやるだけやってやると心の中で息巻いて決心したが、

いざラブホテルの前に着いて車を降りると、

緊張で胸が張り裂けそうだった。

中に入って聞いていた部屋番号を探してすぐに見つけたがインターホンを押す人差し指が震えて定まらない。

意を決してボタンを押すと、ドアがゆっくりと開いていく。



「こんにちは、千春です!よろしくお願いします!」


「うわ、思ってたより美人だよ!指名してないのにこんな綺麗な子が来るんだ!」


頭の中であらゆる気持ち悪い男を想像していたが、思っていたよりも普通で少しホッとした。

それからは多少リラックスして接客に臨めたので

なんとか初回を無事に終わらせることが出来た。


勤務を終えて莉愛が待つ家へと帰り、

今日の出来事を莉愛に話した。

莉愛は心配してくれていたので、話を聞いた後はそっと優しく抱きしめてくれた。




それから二つの仕事を掛け持ちをする日々が始まり、時間の調整や体力的にもかなり無理を感じたが一秒でも早く返済する為に全力で頑張った。

出勤の頻度が違うとはいえ、二つの仕事を両立する莉愛に感心したと同時になにが彼女をそこまで駆り立てるのか引っかかる。


今まで溜まっていた有給を勢いよく使っていったので、

職場の上司からは退職するのかと勘繰られたがそうではないと伝えて有給消化をお願いした。

一緒に働いてる人達は今まで私に助けられているからとシフトの調整も応じてくれたそうで、みんなのご厚意に甘えることになった。

結果的に見れば、ずるずると長く続けている職場だが長く続けただけの甲斐は感じられて人間関係も悪くないと今一度、認識できた。



スケジュールの都合はついたので、風俗の仕事も本格的に始めていき、お客さんとトラブルになることもなく

予約で一日が埋まる日や何度も指名してくれるお客さんも増えている。

そしてその状況になるにはそう時間はかからなかった。


母の件は気掛かりではあるが、まずはお金の事を解決してからと、母の事は頭の片隅にありながらも後回しにしていた。


でも、この日が訪れたことで母の件も大きく動き出す。


久々に新規のお客さんから予約が入っており接客することになった。

お客さんと合流して行為に入る前に雑談をしていると、どうやら探偵の仕事をしているらしい。

話題の掘り下げの為に人探しもしているのか?

と尋ねると肯定したので、

もしかしたら母を探すことも出来るのではないかと思いつき、その男性に事情を軽く説明して

今は名前しか分からない母を探して欲しいと話した。

すると快く引き受けてくれて母の名前を教えて欲しいと言われ、母の名は<村崎聖花>と伝えた。



男性はにやついた顔で私に近づき

「探してもいいけど……サービスしてくれるよね?笑笑」

私は男性が望むように欲望を受け止めた。



今後の進捗状況などを聞く必要があるので、

お店からは止められているが、連絡先を交換してその日は探偵の男性と別れた。


それ以降も何度か私を指名してくれて対面で話すこともあった。

一度、探偵事務所に行きたいので事務所の住所教えて欲しいと言うと、名刺を渡された。

名刺には名前や住所が載っていたが、

事務所には妻がいて風俗に行っていることがバレる可能性があるので事務所には来ないで欲しいと言われた。

ただ、自分が本当に探偵をしていると証明する為に名刺を渡したと言わんばかりの雰囲気を醸し出していてその意図を汲み取った。


その代わりに逐一連絡はすると言ってくれたので

家に帰って、莉愛にこのことを話した。



「えっ?ってことはお母さんがどこにいるかわかるかもしれないね!……っていうか探偵ってドラマとか漫画の中でしか見たことないんだけど笑」


「私も探偵なんてドラマでしかみたことないよ笑 もしかしたら嘘つかれてるのかも……」


「でも賭けてみる価値はあると思うな。

ごめんね、彩華のフォロー全然出来てなくて」


「ううん。莉愛のおかけで確実に前に進めてるよ?こうやって話すだけでも落ち着くし」


「そっか、なら良かった!」



それから探偵の男性と何度か会ったが、決定的な情報は無く、この人ではないか?と写真を見せてくれることもあったが別人であった。

この人と会うのを止めるか、あるいは別の探偵を探して依頼しようかと考えた矢先に、ようやく母と似ている写真を探偵がホテルの一室で見せてくれた。


写真の背景は古めのマンションの入り口のような感じで、

コンビニで買い物をしたのであろうレジ袋を片手にぶら下げて歩いている様子だった。


探偵の男性は得意げな面持ちで話を展開した。


「いや〜探すのに苦労したよ笑笑

名前がヒットしないから、それらしい人をシラミ潰しに当たっていったから時間かかっちゃった。

今は村崎聖花じゃなくて江口聖花に名字が変わってたよ。お母さん結婚したんじゃない?」


母の名字が変わっていたことに驚きを隠せなかった。とはいえ依頼は受けてくれたので代金の話を切り出した。


「それで……依頼料っていくらですか?そういえばはっきりと料金を聞いてなかったですよね」


「料金は要らないよ。いつもサービスしてくれてるからさ!

今回は特にサービスしてもらおうかな〜

ついでに今回のホテル代のお支払いよろしく笑」



母であろう人物の情報を貰い、ホテルを出た。

もうこの人と関わりたくないので連絡先を受信拒否して消そうとしたが、お店にクレームが来るかもしれない可能性を考えて、保留にした。

この仕事を辞めるまでの辛抱だ。


家に帰り、お風呂に入って湯船に浸かりぼんやりと考えていた。

もし母と会ってもなにから話していいのか、ちゃんと話せるのか、

そもそも何故ここまでして会おうとしているのかさえ、もう濁って分からなくなっている。


入浴剤を入れて、にごり湯になっている水は自分の心と重なっているようだ。

綺麗な水のように澄んだ心などあるのだろうか。

もし、あるのだとして澄んでいることが普通なのだとしたら、私はやっぱり異常なのだろう。



「彩華〜ケーキの期限が今日までだけど、今から食べる??」


浴室のドアに莉愛のシルエットが映りドア越しに大きな声で話しかけてきた。


「うん。私はガトーショコラで〜」


風呂から上がり、ナイトウェアを着て二人でケーキを食べたながら例の探偵から母の手がかりを手に入れたと伝えた。


「嘘!?どうやって調べたんだろう。って彩華はお母さんとは一人で会うつもり?

もし不安なら予定合わせて一緒に行こうか?」


「ううん、一人で会う。一人でケリをつける」


「おっ、なんかかっこいい笑笑」


「どこがかっこいいのよ笑笑」


ケーキを食べている莉愛の腕に大きな引っ掻き傷が見えたのでもしやと思い聞いてみた。


「その腕の傷はどうしたの?またやられたの?」


莉愛は介護の仕事をしており、入所者は認知症の方も多くたまに暴力を振られる時があると聞いていた。


「うん笑 でも悪気はないから仕方ないよ!笑」


悪気が有るか無いかではなく暴力を振るった時点で悪なのだ。

意思の問題ではなく身体は誰かを傷つける為に動いたという事実は変わらない。

それが認知症だから、老いているから、という

安易な理由では済まされない。


「私はそれを仕方ないことだとは思えないけど。辞めた方が良いと思うな。莉愛の身を守る為にも」


「全員がそうじゃないから、大丈夫だよ……」


莉愛はケーキを食べ終えて、もう寝ようと言ってきたので布団の中に入り部屋の明かりを消した。

莉愛の瞳が泣き濡れているのが暗闇の中でも透けて見えていた。



今日は一日丸々の休日だ。

今の生活サイクルになってからは滅多に取れなくなったので今日に母に会いに行こうと考えていた。結局緊張してよく眠れず、早起きをした。


菓子パンを食べてから支度をして自宅を出たが

どう接触しようかなど、色々なことを考えていると心がそわそわして落ち着かない。


探偵に教えてもらった住所に向けて足を出し、電車を乗り継いで目指した。

母であろう人物はマンションに住んでいるようだ。

とはいえ古いマンションなので防犯設備は厳重ではなく容易に入り口を通ることが出来た。

少し周りを見ながら歩いていると、女性がゴミ袋を捨てていた。


間違いない、村崎聖花だ。いや江口聖花か。

流石に最後に会った時より老けているが年齢を考えれば、年相応には見えないほど若く見える。

そう思った瞬間に女性と目が合った。

その女性もまた、娘が目の前にいることを断定した。



先に声を掛けたのは聖花の方だった。


「彩華?なんでここにいるのよ……」


「知り合いに探偵がいて探してもらった。色々と言いたいことも聞きたいこともあるから来た」


「そう。ここで話すのもあれだし、

家で話しましょ。散らかってるけど……」


聖花と彩華は無言のままエレベータに乗り

部屋に上がっても沈黙は続いた。



「それにしても、捨てた母親にわざわざ会いに来るなんて、

あんた頭おかしいわね笑 流石は私の娘」


母は私の全身をゆっくりと見回す。


「その感じだと母親にはなってないみたいね」


「そんなことなんでわかるの?」


「わかるわよ。母と女は全くの別物よ。

それよりいま男はいるの?笑笑

っていうか、垢抜けて綺麗になったね。

その点も流石は私の娘」


「もっと他に話す事があるでしょ」


「じゃあなにが聞きたいのよ」


「あの時、男に私を売ろうとしてたの?」


「………うん、売ろうとした」

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