第93話「修行、です?」
「ししょーが部屋に籠もって出てこない、です?」
修行日、雅が首をかしげながら蓮に尋ねた。
「……えぇ。どうやら私が、なにか気に障ることを言ってしまったみたいで」
蓮は苦笑しつつ、肩を落とす。
「ふむふむ……なるほど、です!」
雅は真剣に頷き、今にもメモ帳を取り出しそうだった。
「それと……バルさんは、廊下で倒れているところを見つけました」
「た、倒れていた、です!?」
雅は大げさに両手で口を押さえる。
「えぇ」
「えぇ、って……それ大事件じゃないですか!?」
「はい。でも、それは大丈夫なんです」
「だ、大丈夫なんですね……」
納得しきれない顔のまま、ますます混乱する雅。
蓮は小さく息を吐き、ぽつりとつぶやいた。
「ただ……食事のときは、いつも一緒だったので……」
その声音には、寂しさがにじんでいた。
「…………!」
雅の目がぱっと見開かれる。
「それなら! 自分に任せて欲しい、です!」
胸をドンと叩いて宣言する。
「……よろしいのですか?」
「はいです! ししょーを必ず連れ戻してみせる、です!」
気合十分に拳を握りしめる雅。
蓮はふっと微笑み、深々と頭を下げた。
「……お願いします」
──そして廊下の奥。
黒い扉の前に立った雅は、ぐっと拳を握りしめていた。
「……ここが、ししょーのお部屋……」
つぶやいた声は緊張でわずかに震える。
扉は固く閉ざされ、内側からは物音ひとつ聞こえない。
ただ、冷気だけがじわじわと漏れ出し、雅の頬を刺した。
──ドンドン、ドンドン!
「ししょー!開けてくださいです!」
必死に呼びかけても返事はない。
「……だ、だめです。完全に無視されてるです……!」
額に汗を浮かべ、足踏みする雅。
しかし次の瞬間、ぐっと顔を上げ、決意の炎を瞳に宿した。
「こうなったら……!ししょー直伝の魔法を……弟子の自分が披露してみせる、です!」
よいしょ、よいしょ……。
学校指定のバッグを漁り始める雅。
「じゃじゃーんっ!」
取り出したのは──某アニメでおなじみのピンクのマジカルステッキ。
「ついに、これを使う時がきた、です!」
ステッキを高々と掲げ、ドヤ顔の雅。
「いくです!魔力解放───!」
──カチッ。
ステッキの持ち手にあるスイッチを押すと、先端の星がぴかっと光る。
「マジカルマジカル……呪文考えてないので以下略……パワーアターック!!」
ぶん、と勢いよく振り下ろした瞬間──
──ゴンッ!!
ステッキの先端が、見事に扉へ突き刺さった。
「…………あ」
次の瞬間、軋む音とともに扉がわずかに開く。
ひんやりとした冷気と共に、中から顔を出したのは──リリス。
「………何をしとるんじゃ、雅……」
琥珀色の瞳でじとりと睨みつける。
「あー………いやぁ………そのぉ………」
顔を引きつらせて後ずさる雅。
「扉に……星が飛び出してきたのじゃが?」
リリスの声は低く、冷え冷えとしていた。
「────さ、作戦成功……………です?」
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