第9話「うさ耳、それは文明のトラップ」
スマホのカメラというやつ、どうにも信用できない。
いや、機能はすごい。すごすぎる。
一瞬を、閉じ込める。
目の前の光景を、保存できる。
(……でも。なんでこう、保存したくなるのは、決まって蓮の姿なんだ)
──今朝。
蓮が台所で、すり鉢をごりごりしていた。
なぜか真顔なのに丁寧で、見ていて無性に落ち着く。
(……これは観察記録。文化調査の一環)
(べつに個人的な執着ではない。ないったら、ない)
私は、静かにスマホのカメラを起動した。
そっと構え、ズームを──
──ピロリッ☆
画面に、突然蓮の頭からうさ耳が生えた。
「……は?」
目が点になる私。
そのままの勢いで、シャッターが下りた。
──カシャッ。
「……え?」
写真を確認する。
うさ耳フィルターONの蓮(真顔)
(なにこれ 怖ッッ!?)
「リリスさん? なんか今、ピロって……」
「な、なななんでもないです!!」
スマホを即座に抱きしめ、背中を向けて小走りに逃げる。
(なぜこんな機能がある!?誰が得する!?)
(えっ、これ……保存されてる……?いやでも……笑ってるわけでもないし……怖いし……)
その夜。
私は布団の中で、静かにスマホの画面を開いた。
そこには、神妙な顔の蓮(+うさ耳)が、画面中央に鎮座していた。
(……これ、保存する意味ある……?)
(いや、うさ耳がどうこうじゃなくて……蓮だから残したい……とか、ないよね?)
「…………え、好き?」
──その瞬間、指が音声検索ボタンを押していた。
スマホ「“好き”と検索しました」
「やめてえええええ!!!!!」