第89話「帰り道」
秋の昼下がり──
帰り道の道端には街路樹の影がまだらに落ち、舗道をやわらかく染めていた。
澄んだ風が吹き抜け、落ち葉をさらさらと転がしていく。
「のぅ……蓮?」
「はい、どうかしました?」
振り向いた蓮の声は穏やかで、どこか柔らかい。
「いや……いや、何でもない」
リリスは慌てて視線を逸らし、歩調を少し早めた。
だが、胸の奥にひっかかった棘は消えない。
脳裏には、つい先ほど見たシュワリンガーと明子の姿がよぎる。
魔族と人間──寄り添う姿。
あまりにも眩しく、それでいて、どうしようもなく心を締めつけた。
魔族と人間では、あまりにも寿命が違う。
いずれ必ず訪れるその時を、想像してしまう。
胸がズキンと痛む。
『種族の違い』──その言葉が、鋭い刃のように思考を切り裂いた。
(私は……私は……蓮とは………)
「……リリスさん?」
蓮の呼びかけが耳に届いても、声が出ない。
喉が詰まり、ただ不安に押し潰されそうになる。
視界がじわりと滲んでいく。
リリスは堪えるように唇を噛みしめ、俯いた。
涙がこぼれる寸前の瞳が、陽射しの下できらめく。
その時だった。
ふいに温もりが伝わる。
はっとして前を向くと、蓮がまっすぐに目を合わせていた。
その手は、彼女の手を静かに、けれど確かに握っていた。
「……て……手を……離して……」
涙混じりの声で、リリスはかすかに震える。
「……離しません」
蓮の返答は穏やかだが、揺るぎがなかった。
「………離し……て……」
「離しません」
「……どうして……」
耐えきれずに問いかけるリリス。
蓮は真っ直ぐに彼女を見つめ、言葉を選ぶように静かに答えた。
「私の我儘です。──今、貴方を離したくないと思ったからです」
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