表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/94

第88話「お願い」

「おや、お二人とも──どうしてこちらに?」

戸口から現れた蓮が、穏やかな声音で問いかける。


「お迎えに来たんッスよぉ〜」

バルがにこやかに答える。


「そうでしたか。では……お待たせいたしました」

蓮は朗らかな笑みを浮かべた。


「そ、その……」

リリスは慌てて袖で目元を押さえ、赤みを隠すように視線を逸らす。

「……終わったのか?」とかすかな声で尋ねた。


「はい。今は、お二人で遺影の前に並び、静かに手を合わせています」

蓮は静かに頷き、どこか安堵をにじませる。


「積もるお話もあるでしょうから……私はひとまず御暇してきました」


「そう……か」

リリスはそっと息を吐き、声を落とす。


その時──


「蓮様っ!」

慌てた様子で玄関から飛び出してきたシュワリンガーが声を張った。


「この度は……本当にありがとうございました。明子様も、だいぶ落ち着いたように思われます」

深く頭を下げながら、彼は蓮の手を両手で握りしめる。その瞳には真っ直ぐな感謝が宿っていた。


シュワリンガーは懐から小さな包みを取り出した。

「ささやかながら……どうか受け取っていただけませんか」


しかし蓮は、静かに首を振る。


「お気持ちだけで十分ですよ。私はただ、できることをしたまでですから」


シュワリンガーの表情に驚きが浮かぶ。その上で蓮は、さらに穏やかに言葉を重ねた。


「もし今後……リリスさんに何かあった時には、どうか力になってあげてください。それが何よりの恩返しになります」


その言葉に、リリスは思わず息を飲んだ。

自分のために………胸の奥が不意に熱くなる。

心臓の鼓動が速まり、うまく声が出せなかった。



「───リリス様」


「この命に代えましても、必ずお支えいたします」

胸に手を当て、深々と礼をするシュワリンガー。


命に代えて──。

その言葉の重みが、胸にずしりと響く。


「……命を懸けるだなんて、言うでない」

思わず、声が震えた。

「我は……そんなもの、望んでおらん」


シュワリンガーは顔を上げ、困惑したように瞬きをする。


「でも、それほどの──」


「それでもだ」

リリスは強く遮った。

「お主が無事でいなければ、誰が明子殿を支えるのだ」


言葉を継げずに立ち尽くすシュワリンガーを、蓮が静かに補う。


「リリスさんのおっしゃる通りです。

命を懸けるのではなく……共に生き、支えることが何より大切ですよ」


シュワリンガーの瞳が大きく揺れ、やがて深く頷いた。

気に入っていただけたら、評価・ブクマで応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ