第79話「寝る子はよく育つ」
「落ち着いたかなぁ?」
雫が小声で問いかける。
「ふむ……寝ているようじゃな」
リリスは静かに覗き込み、安堵の息をついた。
「よいしょっと──」
雫は軽やかにレミアムの体を抱き上げる。
「平気か?」
リリスが心配そうに問う。
「大丈夫大丈夫ぅ〜。よくあることだからぁ〜」
雫は笑みを浮かべ、背中をぽんぽんと優しく叩いた。
「自分、代わるっスよ?」
バルが一歩前に出る。
「やめたほうがいいかなぁ〜。ほら」
雫の胸元に顔を埋め、服をぎゅっと掴んだまま眠り込むレミアム。
「………そうっスね」
バルは気まずそうに後ずさった。
「こうして寝顔を見ていると……まだ幼いのぅ」
リリスは、そっと頬を撫でる。
「そうだねぇ〜。でもリリスさんの役に立つって……怖いの苦手なのに、ずっと気を張ってたみたいだよぉ」
雫は目を細め、やわらかく笑った。
「まったく……」
リリスは優しく微笑み、眠る妹分の髪を撫でた。
「それじゃぁ、次の七不思議にぃ──」
「いや、今日はもうやめておこう」
リリスが首を振る。
「いいのぉ? レミレミ抱えながらでも動けるよぉ?」
「無理して今日行くこともなかろう。それに──1人は傷だらけだしの」
バルを見て、苦笑いするリリス。
「運良く木に落ちたんッスけどねぇ」
なはははッと笑うバル。
「そっかぁ〜。それじゃぁ帰ろぉかぁ〜」
レミアムを抱き直しながら、雫はゆるりと歩き出す。
「んむ……またいずれ、なっ! 花子殿」
リリスは振り返り、薄暗い個室へ声を投げた。
四人が階段を降り、闇の中に消えていく。
……しん、とした静寂のあと。
「………またね」
誰にともなく、かすかな声が響いた──。
その頃、天明寺にて───
「……どなたですか?」
境内に響く蓮の声。
月明かりの下、闇から一歩踏み出した影が、恭しく一礼する。
「申し遅れました。私の名は──シュワリンガー・ネスタール。
第五層ネスタール領を治める、魔王候補にございます」
端正な顔立ちに、不気味な笑みが浮かぶ。
「……もし宜しければ。これから行く先についてきていただけないでしょうか?」
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