第77話「花子さんがきた」
──校舎3階 女子トイレ前
廊下の端にぽつんとあるそれは、月明かりを受けてタイルの白さがやけに冷たく光っていた。
しんと静まり返り、扉の隙間からは何も音がしない。
「……ここが、厠か」
リリスは腕を組み、重々しくうなずいた。
「おねぇ様……」
レミアムはおびえてリリスの腕にしがみつく。
「お〜、雰囲気あるねぇ〜。トイレの花子さんって、こういう場所が似合うんだよねぇ〜」
雫はわくわくした様子で鼻歌を歌っている。
「……ふふっ」
リリスは口元をゆるめ、トイレの扉を見据える。
「花子殿……! このリリス、ついにお会いできるのじゃな!」
「いやいやいや!」
雫は慌てて手を振った。
「そんな崇め奉る感じじゃないからねぇ〜!? 花子さんは“怪談”のひとつなんだよぉ?」
「怪談? 怪談とはなんじゃ?」
「怪談っていうのは、幽霊とか妖怪とか怪奇現象などの怖いお話のことだよぉ〜」
「むっ? 花子殿が怪談……? おかしいのぅ。古文書には“困りごとを抱えた子らを救う者”と記されておったのだが……」
リリスは真剣に首をかしげる。
「そ、それたぶん完全に別の話かなぁ〜?」
「し、雫……?」
レミアムは涙目で雫にすり寄る。
「花子さんに会ったら……助けてくださらないの……?」
「そだよぉ〜。呼び出すにはね、校舎3階のトイレで3番目の扉を3回ノックして、『花子さん、いらっしゃいますか?』って言うの。すると、中からかすかな声で『はい……』って返ってきて……」
「か、返ってきたらどうなるんですの?」
レミアムの声は震えていた。
「その扉を開けると、赤いスカートのおかっぱ頭の女の子がいて……そのままトイレに引きずり込まれるんだよぉ〜」
「何故トイレに引き込むのじゃ?」
リリスは本気で問い詰める。
「な、何故って言われてもぉ……そういう話だから、としか……」
雫は困ったように肩をすくめた。
「まぁ確かめてみるしかあるまいよ」
リリスはすたすたと中に入っていく。
「あっ、おねぇ様! わ、私もっ!」
レミアムは慌てて後を追い、袖を掴んだ。
「ここじゃな?」
リリスは3番目の個室の前に立つ。
「だ、大丈夫ですの?」
袖を掴む手に力がこもる。
「問題ないじゃろ。余はきちんと寝る前に、チューリップを描いた封筒を枕元に置いておいたからな!」
「……一体何の儀式なんだろぉ……」
雫は苦笑しながら首をかしげた。
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