第69話「いと尊きお方」〜レミアムside〜
───数年前。魔界貴族の大集会。
煌びやかに飾られた大広間は、光に満ちているはずなのに……
わたくしには、刃で刺し貫かれるような冷たさしか感じられなかった。
「おやおや……第二層のコーラル家ではないか」
「地表に近い薄き血で、よくもこの壇に立てたものだな」
嘲りの声。笑い声。
一つ一つが槍となって、胸に突き刺さる。
背筋を伸ばし、笑顔を作ろうとした。
けれど膝の上の拳は震え、爪が食い込み、血がにじんでいた。
「第二層などまだマシだ。第一層の候補など存在そのものが茶番」
「人間に近い吹き溜まりが“魔王候補”とは……笑止千万」
あぁ……聞き飽きた言葉。
でも、それは決して慣れるものではありません。
蔑まれ、見下されるたび、胸の奥で何かが軋み、崩れていく。
(どうして……?)
(わたくし達が何をしたというの……?)
優しい父と母のもとに生まれ、領民たちと共に育ち、ただ誇りをもって生きてきただけ。
それなのに……血が薄いというだけで、価値を否定される。
涙が、止まりませんでした。
(血が尊い? ならば、わたくしたちは……)
(同じ血を流す存在であるはずなのに……)
悔しくて、哀しくて……
わたくしは心の中で、自分に言い聞かせるしかありませんでした。
──ここに、わたくしの居場所はない。
「……お目汚し……し、してしまい……失礼……致しました」
必死に震える声を抑え、頭を下げました。
そして、逃げるようにその場を去ろうとしたのです。
……その時。
「──くだらない」
低く、しかし圧倒的な声が、広間に響き渡りました。
思わず振り返ったわたくしの視線の先。
上座に座る少女――青いドレスを纏った第7階層の令嬢、リリス=ヘルバウンド様。
「階層がどうだの、血が薄いだの……そんなものに何の意味がある?」
ツカツカと、迷いのない足音で壇を下り、先ほど嘲笑した貴族の前に立つ。
「価値は生まれにあらず。力も、誇りも──自らの歩みで示すものよ」
冷徹に光る瞳。
その一瞥だけで、広間にいた貴族たち全てが息を呑み、動きを止めた。
凍りついた空気の中、ただひとり……わたくしだけは、その姿に目を奪われていたのです。
(あぁ……なんと美しい……)
(この方は……わたくし達の痛みを、理解してくださる……!)
その瞬間。
胸の奥で、熱が爆ぜました。
それは憧憬であり、恋慕であり、祈りであり、そして誓いそのもの。
──この命、この魂、この未来すべて。
リリス・ヘルバウンド様に、捧げよう。
わたくしはあの時、心のすべてでそう……決めたのです。
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