第64話「バル、ステイ!」
「ねぇお師匠さん……少しだけ、お願い聞いてもらってもいいかなぁ?」
雫がおずおずと切り出す。
「……リリスじゃ」
淡々とした声が割って入った。
「えっ……」
雫の目がまん丸になる。
「我の名じゃ。次からは“リリス”と呼ぶがよい」
一瞬だけ笑みを見せ、すぐに真剣な眼差しに戻る。
「──それで、願いとは何じゃ?」
「あ……ぁ、えっとねぇ……実はお宝の件で……会ってほしい人がいるんだぁ……」
雫は視線を落とし、声を細めた。
「…………そうきたッスか」
バルの瞳が鋭く細まり、空気がぴりりと張りつめる。
「ひっ……」
雫の肩が小さく震えた、その瞬間。
「だ、だめ、です!」
雅が一歩前に出て、雫を庇うように両腕を広げる。
「よせ、バル!」
リリスの声が低く響いた。
「…………」
渋々といった具合で、バルは腕を組み視線をそらす。
「まったく……」
リリスは小さく息をつき、雫を見据えた。
「それで会わせたい者というのは……“魔王候補”じゃな?」
「! ……ど、どうしてそれをぉ?」
雫が慌てて顔を上げる。
「簡単な話じゃ。我もその“魔王候補”だからの」
静かに、しかし揺るぎなく放たれる言葉。
「ま、魔王候補って……いったい何なの、です!?」
雅の声が裏返り、空気はさらに張りつめていく。
「──リリスさん」
蓮が口を開いた。
「うむ、良い機会じゃな。……実は──」
◆◆◆
「──ということじゃ」
長い説明を終え、リリスは湯をすすった。
「まさか……! 本当に異世界が……あったのですか!!」
両手を高く上げ、目を輝かせる雅。
「……お、おぉぅ……落ち着け、雅」
若干引き気味にリリスが眉をひそめる。
「ふぅ……」
蓮が苦笑しつつ空気を和ませた。
リリスは湯呑みを置き、改めて雫へ視線を向ける。
「──さて。ひと通り話した以上、もう隠し立ては無用じゃろう」
声は穏やかだが、芯のある響きがあった。
「雫よ。そなたが会わせたいという相手……それは誰じゃ?」
「……う、うん」
雫は小さく息をのむ。
「彼女は───」
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