第63話「イケメンは罪である」
───天明寺
「ただいまッス!」
勢いよく襖を開けるバル。
「おかえりなさい、バルさん」
蓮が穏やかに微笑む。
「いやぁ〜……なんだかキナ臭い話が耳に入ったんで、急いで帰ってきたッスよ」
「キナ臭い話……ですか?」
蓮が眉をひそめた、その時。
「──他の魔王候補のことじゃろ?」
いつの間にか現れたリリスが、湯飲みを差し出す。
「ありがとッス!」
バルは受け取り、ひと息ついた後、表情を引き締めた。
「そう、その通りッス。どうやら……他の魔王候補も、人間界に拠点を求め始めてるみたいなんスよ」
「……やはり」
蓮の声が低く落ちる。
「じゃな……」
リリスが静かに頷いた。
そして二人は互いに視線を交わす。
「予想が正しければ──恐らく雫の背後には、すでに別の魔王候補の影が……」
その時。
「……こんにちは、です……」
ひどく控えめな声が、玄関の方から響いた。
「む? 雅か?」
リリスが顔を上げる。
「迎えに行ってきますね」
蓮はすぐに立ち上がり、足早に廊下を進む。
「師匠ぉ……こんにちは、ですぅ……」
やって来た雅は、どこか元気がない様子で頭を下げた。
「何じゃ、顔色が冴えんのぉ。何かあったのか?」
「ぇ、えっと──実は……」
その時、雅の後ろからひょいと顔を出す影があった。
「こんにちわぁ、お師匠さん」
「むっ? 雫……!」
リリスの目が細まり、声にわずかな警戒が滲む。
「はい、雫ちゃんですぅ」
雫はいつもの調子でにこやかに手を振った。
「この間はゴメンねぇ、一人で勝手に盛り上がっちゃって……」
「……別に気にしてはおらん。じゃが、謝罪は受け取ろう」
リリスは静かに返す。
その様子を横で見ていたバルが、声を潜める。
「リリス様……いいんッスか?」
「ふぅ……わかっておる。じゃが無碍にはできんよ」
「……了解ッス」
バルはそれ以上は踏み込まず、肩をすくめる。
「よかったぁ、ですぅ部長ぉ〜」
雅が胸をなでおろす。
「無理を言って連れてきてもらって助かったよぉ、ミヤビン」
雫がにっこり笑い、雅の腕にしなだれかかった。
そこへ──
「──お茶菓子を持ってきました」
蓮が人数分の菓子と湯飲みを盆にのせて戻ってきた。
「いつもすまんのぅ、蓮」
「いえいえ、気にしないでください。さ、皆さんどうぞ」
「ありがとうございますぅ……」
雫は湯飲みを受け取ろうとしたが、その手がぴたりと止まった。
「……ぶちょー?」
雅が小声で覗き込む。
「あ、あぅ……その……」
雫は顔を真っ赤にし、ちらりと蓮を見ては慌てて視線を逸らす。
「どうかいたしました?」
蓮が柔らかく微笑む。
「な、なな、なんでもないですぅぅぅ……」
耳まで赤くして照れる雫。
リリスが目を細め、低く呟く。
「……やはり、敵かもしれん」
「リリス様っ!?」
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