第58話「Who are you?」
「あなたは──だぁれ?」
雫の視線に射抜かれ、リリスの肩がびくりと跳ねた。
「わ、我は……その……えっと……」
「わ、私の師匠です!」
雅が慌てて声を張る。
「……師匠ぉ?」
雫は小首をかしげる。その笑顔の奥で、瞳だけは鋭さを失わない。
「ふふ、面白いねぇ。でもぉ、この学校って出入りは厳しいんだよぉ?──どうやって入ってきたのかなぁ?」
リリスと雅は顔を見合わせ、言葉を失う。
図書室でのドタバタ、山田からの逃走、そしてこの部室に辿り着いた経緯……口にすべきかどうか、迷いが喉を塞ぐ。
「……ま、いっかぁ」
雫はふわりと笑みを戻した。
「噂になってるよぉ。“とんでもない美女”が構内を彷徨いてるってぇ」
「……美女!?」
リリスはばっと身を乗り出し、頬を赤らめる。
「そ、そうか……やはり我の妖艶さ、隠しきれぬか……!」
「さすが師匠、です!」
雅も便乗する。
雫はくすっと笑い、机に頬杖をついた。
「ふふ……でもねぇ。目立つってことは、いいことばかりじゃないんだよぉ?」
声色は柔らかいまま。だが次の瞬間──
雫の瞳がすっと細くなり、冷たい光を宿す。
「この学校に入ってくる存在……ちゃんと“見てる人”がいるからねぇ」
リリスと雅は同時に息を呑んだ。
緊張が張り詰めた、その刹那。
「ま、でもぉ〜」
雫はぱっと笑顔に戻り、両手で水晶玉をくるくる回す。
「私は怪しいもの、大好きだからぁ。もし貴方が“魔界出身”とか、“異世界転移”でも──大歓迎だよぉ」
「……っ」
リリスの喉がひくりと震える。
「あわわわわっ……! 師匠は師匠ですから!」
雅が慌ててかぶせるように叫んだ。
雫は楽しげに水晶玉を覗き込みながら、鼻歌まじりに言葉を落とす。
「安心していいよぉ。私は何でも受け入れるぅ。だって……ここはオカルンだもん」
その笑顔は無邪気で、底なしに柔らかい。
だが同時に──どこまで本気なのか、掴みどころがなかった。
二人の胸に、不気味な疑念だけが残る。
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