第56話「料理本は錬金術」
──雅とリリス、書架の陰。
二人は背を低くして、棚のすき間から山田の動きをうかがっていた。
「今のうちじゃ……“機密資料”を極秘に調査するぞ」
リリスの声に、雅は神妙に頷く。
そっと引き抜いた一冊。その表紙には『世界の味紀行』の文字。
ページをめくれば、色鮮やかな料理の写真が次々と目に飛び込んでくる。
「おぉ……人間界の献立書か? ……ふふ、これは美味そうじゃのぅ……蓮に作ったら喜ぶかなぁ」
リリスはぱらぱらとページをめくりながら、ふと遠くを見るような目になる。
そこには、台所でエプロンを身につけ、蓮に料理をふるまう自分の姿が──。
「にゅふふ……“おかわり”などと言われたら……たまらんのぅ」
頬がほんのり緩み、口元が勝手にほころぶリリス。
「……何をしているのですか」
背後から落ち着いた声が響く。振り返ると、そこには腕を組んだ山田。
「はっ! ここは……!? い、いかん……見つかった! 逃げるぞ、雅!」
「は、はい、です!!」
二人は慌てて本を棚に戻し、ドタバタと図書室を飛び出していく。
その背に──
「……図書室では、お静かにぃ〜」
山田の声だけが、静けさの中に長く残った。
──校舎裏手の階段下。
ひんやりしたコンクリート壁にもたれ、二人は肩で息をしていた。
「……なんとか逃げ切ったか……恐るべし、山田」
リリスが額の汗をぬぐう。
「普通に歩いてるだけなのに……足音を消して歩くのが癖になってるのかもしれない、です!」
雅も息を整えつつ、真剣な顔。
その時──
「──みぃ〜やぁ〜びぃん〜!!」
元気な声と同時に、何かが飛び出してきた。
次の瞬間、雅は勢いよく抱きしめられる。
「ぷぉぉぉぉ!!」
そのまま二人まとめて、階段下の地面に倒れ込む。
「何じゃ!? 敵襲かっ!?」
リリスが即座に構える。
「あはははぁ、ごめぇんごめぇん。勢い余って突っ込んじゃったぁ〜」
笑いながら雅を放すのは、ふんわりと軽やかで、淡い金色が柔らかく波打つ髪の快活そうな少女。
「ひ、ひどいですぅ……ぶちょー……」
半泣きで眼鏡を直しながら抗議する雅。
「む……知り合いか?」
リリスが首をかしげると──
「はじめましてぇ〜、アタシはオカルト倶楽部部長の霧ヶ原雫。よろしくねぇ〜」
少女は、にっこりと自己紹介した。
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予約投稿日を間違えてしまいました(´・ω・`)




