第55話「図書委員・山田」
「さて──改めて案内するです」
雅は小さく咳払いし、案内モードに切り替えた。
「この学校は“清く正しく”がモットーで、在校生はおよそ六百人。部活動も盛んで、運動部・文化部ともに活躍してます」
「ふむ……清く、正しく、か……」
リリスはうんうんと頷きながらも、視線は廊下のあちこちを忙しなく泳がせている。
やがて、昇降口の方を指さし──
「おぉっ、あれは何じゃ? ずらりと並んだ木の小部屋……」
「……あれは下駄箱です。靴をしまう場所です」
「下駄箱……! 古文書によれば、そこに“密書”を忍ばせ、別の場所での密会や作戦会議を指定する──」
リリスの目がぎらりと輝く。
「これは陰謀と謀略が交錯する、秘密の連絡箱ではないかっ!?」
「そ、そんな物騒な場所だったとは……です……!」
雅は、なぜか背筋を震わせつつ全肯定。
リリスが下駄箱をひとつひとつ覗き込み、やたら真剣に“調査”している横で、雅は咳払いした。
「……コホン。続けるです。あちらが図書室で──」
「なにっ、図書室だと!? すぐに案内せよっ!」
リリスの食い気味の声に、雅は思わず敬礼する。
「か、畏まりましたです!」
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──天ヶ原高校 図書室前。
重厚な扉を開けると、静けさと紙の香りが迎えてくる。
「……やはり、ここはただの読書所ではないのぅ……古文書の匂いがする」
リリスは低く呟き、雅は即座に頷く。
「確かに……そうかもしれません」
木の書架が幾重にも並び、整然と本が収められたその光景は、まさに“資料庫”そのもの。
リリスは歩きながら、光を受けるページのきらめきに目を細めた。
「うむ、これは人間界の“機密資料庫”じゃ。ここには世界の命運を左右する知識が封印されておる」
「なるほど……封印、です」
雅は真剣にメモを取り始める。
その時──厚みのある本を抱えた男子生徒が、カウンター越しの図書委員へ声をかけた。
「すみません、この本、貸してください」
図書委員は穏やかな笑みで本を受け取り、静かに告げる。
「はい、どうぞ。丁寧に扱ってくださいね」
リリスは、すかさず雅の袖を引いた。
「───奴は、何者じゃ?」
「彼ですか? 図書委員、です」
「司書か……アヤツこそ、この機密資料庫の番人じゃな」
「そ、そんな……隣のクラスの山田君が……まさかっです!」
その時、山田がこちらを見た。
人差し指を口元に当て、静かに首を振る。
雅が小声で解説する。
「あ、アレは“静かに”って意味のジェスチャーです」
しかしリリスは目を見開き──
「いや、違う……古文書で見たことがある……」
「あれは“一は全、全は一”を示しておる……真理の扉を開いた者が言っておった言葉じゃ………」
「や、山田君が……真理の扉を……っ!?」
雅は完全に信じ切り、二人揃って山田を畏怖の眼差しで見つめ続けた。
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