第51話「見知らぬ、天井」
──むくり。
重たい瞼を開けた瞬間、グラントの視界に飛び込んできたのは…見慣れぬ天井。
「……む? ここは……?」
「何が……いや、待て、私に何が……」
上体を起こすと、背後からのんびりとした声が降ってきた。
「あら、ようやく起きたのね」
振り返れば、台所で割烹着姿の花子が、鍋から立ち上る湯気をうちわであおいでいる。
ほんのり漂う香りは──間違いなくネギ。
「ごはん、もうすぐできるから食べていきなさい」
促されるまま、ちゃぶ台に腰を下ろすグラント。
やがて、湯気をたっぷりまとった土鍋が、どん、と置かれる。
ふたを開ければ──
ネギ鍋。
それも、これでもかと白ネギが山のように積まれている。
「…………ッ」
胸の奥に、説明できない寒気が走った。
理由は分からない。ただ、体が本能的に警戒している。
そして、首のあたりに微かな鈍痛。
「どうしたの? 熱いうちに食べなさいな」
笑顔の花子と、ネギの山。
グラントは、箸を持つ手をわずかに震わせながら──黙って椀を受け取った。
「──それで、人間界に来た本当の目的は……何かしら?」
ふいに、花子の声音が一段低くなる。
「むっ……」
グラントの手が止まった。箸の先で、湯気を立てるネギが揺れている。
「他にも何か別の理由があるんでしょ?」
花子は真っすぐにグラントを見つめる。
しばし沈黙ののち、グラントは箸を置き、深く息を吐いた。
「……はぁ。まったく、花ちゃんには敵わんな」
「当たり前でしょ? 言っちゃなんだけど、昔馴染みなんだから」
花子はふっと笑い、湯気越しにその瞳を細める。
グラントは姿勢を正し、低く続けた。
「……実はだな──他の各階層の魔王候補どもが、続々と人間界に押しかけようとしておる」
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