第49話「聖剣・ネギカリバー」
秋の風に、暖簾がふわりと揺れる。
「ごちそうさまでした……」
カラン、と扉が開き、甘味処の中からリリスと蓮が姿を現す。
手には小さな紙袋と、ほんのり甘い香りの残り香。
「……おいしかったですね」
「……うむ、…………途中から味が分からなくなったがな………」
リリスは顔を少し背けながら、小さく呟いた。
「お土産も買いましたし、帰ったらバルさんにもお裾分けしましょうか」
「……そ、そうじゃな! あやつも甘いのには目がないからのぅ」
二人の歩幅は、自然とそろっていた。
──と、その様子を、路地の影からじっと見つめていたバルが思わず漏らす。
「あちゃぁ……タイミング最悪ッス……リリス様の耳、真っ赤だし……」
呟きながら隣を見ると、そこには“とある人物”
──黒と紫のロングドレス、巻き髪ウィッグ、きらびやかなアクセ。
ぱっと見は、舞踏会帰りの高貴な淑女──
……しかし、ドレスの下から滲み出るのは圧倒的な質量(筋肉)
魔界最凶の魔軍司令グラント、その人である。
そして、その唇が静かに呟く。
「……リリスに、男の影……だと?」
「えッ」
──バチッ!!!
次の瞬間、バルの足元を黒紫の稲妻が走った。
空気が震える。地面が軋む。
「グ、グラント様!? 落ち着いてくださいって!!」
「…………ワレオチツイテル。アイツコロス」
「やめてッス! その格好のまま行ったら、完全に不審者ッス!! 逮捕されるッス!!」
必死に止めるバルをよそに、グラントの足が一歩前に出る。
バチバチと高まる魔力。
スカートが風になびき──
見えてはいけないものがバルに、容赦なく視界が襲う。
地が揺れ、気温が下がる。
(オェッ──くっ!いい雰囲気の二人のもとに……行かせるわけには行かないッス……!)
立ち塞がるバル
「バルどいて。そいつ殺せない」
「やらせるわけにはいかないッス…!」
紅く燃えるバルの魔力が、グラントの黒紫に対抗するように立ち上る。
「たとえ上司でも、あの二人の空気をぶち壊すなら──容赦しないッス!!」
バルの声が空気を裂いた、まさにその瞬間──
「はいは〜い、そこまで───えいっ」
……ボフッ。
乾いた音がひとつ。
次の瞬間──
ド ズ ー ン。
「……え?」
地響きすら起こしそうな鈍い音とともに、最強司令官が大地に伏していた。
呆然と立ち尽くすバルの視界に飛び込んできたのは──
ネギを片手に担ぎ、頬をぷくっと膨らませている花子の姿。
「まったくもぉ〜。人間界にはね、"人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ"って言葉があるの。常識よ?」
「う、馬というか……完全にネギで沈んでるッス……!」
「さっ、バルちゃん。さっさとこの人、家まで運んじゃうわよっ。手伝って」
グラントの片足を掴み、ズルズルと引きずっていくその姿は──
まるで、捕食者が獲物を巣に持ち帰るかのようだった。
「は、ハイッス!!今行きます!!」
返事はまるで部下のそれ。
そこには、いつものお調子者の姿はなかった。
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