第47話「バル、心のむこうに」
───商店街
商店街を包む空気は、すっかり秋の気配を纏っていた。
アーケードの柱には紅葉の装飾が揺れ、和菓子屋の前には栗や柿を使った季節限定の張り紙。
焼き芋の甘い香りがどこからともなく漂う中、ドレス姿のグラント──もとい、グラちゃんが優雅に歩いていた。
「ほ、ほんとにこっち側なんっスか…? グラントさ……グラちゃん」
「えぇ、リリちゃんの魔力がビンビンに反応してるわっ! こっちよ!」
そう言ってヒールの音を鳴らしながら進むグラちゃんに、バルは俯き気味でついていく。
(目立ちすぎっス……!なんでドレスで堂々と歩けるんスか……!)
すれ違う買い物客たちの視線がチラチラと二人に注がれる。
中には二度見する者、スマホを取り出しかける者も。
「グラちゃん、めっちゃ見られてるっス……」
「ふふん、注目されるのは当然よ。美と魔力は等価なのよ?」
そうは言っても、周囲のざわめきと視線にバルは肩身が狭そうにしている。
パン屋の奥さんがひそひそと話す声や、魚屋の兄ちゃんの笑い声が耳に入ってくるたびに、目をそらすようにうつむいた。
そこへ──
「まあまあまあ、グラちゃんじゃないの!」
どこか朗らかな声とともに、くまのエプロンをつけた花子が袋を提げて近づいてきた。スーパーのレジ袋からは大根の頭と長ネギがちょこんとのぞいている。
「花ちゃん! 久しぶりねぇ!」
「ほんとよ、何年ぶり? あら、そっちの子は……お連れさん?」
「ふふ、紹介するわ。この子はバル。"こっちの世界"の案内役ってところかしら」
「あっ、ど、どもっス!?」
急に話の中心に放り込まれたバルは、ぎこちなく会釈した。
花子はにっこりと笑う。
「まあ、案内役ねぇ……グラちゃん勝手に突き進んじゃうから大変でしょう」
「そ、そんなこと…………あるッス」
「ちょっと酷いんじゃないっ!久しぶりの人間界だからちょっと張り切っちゃっただけよっ!」
「うふふ…ほんと昔から変わらないわねぇ」
懐かしむように笑い合う二人を見て、バルはぽかんと口を開けた。
「ぇっと……昔からのお知り合いなんっスか?」
「えぇ、グラちゃん───グラントとは30年来の友人よ」
「ま、魔界の大将が……こっちの花子さんと!?」
頭の整理がつかないバルに、さらに追い打ちをかけるようにグラントが頷いた。
「そうそう。はじめて会ったのは魔界だったのよ。あれはちょうど、大戦の頃だったかしらねぇ」
「えぇぇえええええ!? え!? え!? 戦っちゃったりしたんスか!?」
「ふふ、どうだったかしら?」
花子はエプロンの裾を指でつまみながら、意味深に笑う。
「───あらためて紹介するわ、バル」
グラントが言った。
「この人は、“元・勇者”よ」
「勇者ァ!?!?!?」
商店街の秋風が、呆然とするバルの頬をさらりと撫でていった。
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