第42話「ときめき☆魔眼講座〜師匠実践編〜」
─翌朝、天明寺・裏庭。
「……よし、では今日は実践じゃ」
リリスは腕を組み、冷たい朝の空気の中に立っていた。
その前には、やる気に満ちた目で待ち構える雅の姿。
「本当に、師匠が……変身を実演してくださるんですっ!?」
「うむ。実例がなければ、学びにはならぬゆえな」
「わ、わたし……一生忘れませんっ!! いざ、変身バンクっ!! どっから来るんですか!? 光!? 氷!? スモークっ!? やっぱ風ですかっ!?」
「ふむ、まずは風じゃな」
「師匠、本気っ……です!!」
雅のテンションは最高潮だった。
だが──
リリスが目を閉じ、深く息を吸った瞬間。
世界が静止したかのような冷気が、空気を切り裂いて広がった。
霧が立ち、草が霜を帯びて白く染まっていく。
「解放──」
リリスがそっと呟くと、彼女の足元から白い靄が滲み出す。
朝露が凍り、霜の模様が石畳を這う。
「……あれ……? なんか……さむ……っ……」
雅がぶるりと身を震わせた瞬間──
風が舞い、光が収束し、リリスの髪がふわりと浮かぶ。
黒から、淡雪のような白銀色へと、色が変わっていく。
「……グラキエル・フォルマ、顕現」
衣の袖がひらめき、ローブの裾には氷結晶の刺繍が走る。
胸元には魔力を封じた宝玉が、淡く冷たい光を灯す。
その姿はまさしく、儀式を経て顕現した“冥界の巫女”。
凛としたその姿に、雅は息を呑んだ。
「し、師匠……綺麗すぎる……」
「そして……ここで決め台詞っ!」
リリスの指先が、きらりと氷の粒を纏いながらまっすぐ伸び──
「我が名はリリス──この身、氷と静謐の衣を纏いし─「───リリスさん?」」
──背後から、蓮の声がした。
「ふにゃっ……!?」
リリスの肩がわずかに跳ねる。
驚きのあまり魔力の制御が一瞬だけ乱れ、
周囲の冷気が暴発するように溢れた。
ゴオォッ──!!
空気が裂け、光が歪み、雅の視界が一瞬、異界のように反転する。
そして。
そこに──見えた。
氷の王冠を戴き、氷翼を広げた“完全な魔装姿”のリリス。
その表情は冷たく、凛と澄んだ瞳がすべてを見下ろしている。
まるで、魔王の如き風格だった。
「──っ!」
雅は震えた。
(今のは……何……です?)
しかし次の瞬間、すっと冷気が収まり、
リリスは元の姿に戻っていた。
蓮が、少し心配そうにリリスへ目を向ける。
「……驚かせてしまいましたか。すみません」
「……い、いや、こちらこそすまぬ。不覚にも集中が乱れた」
普段と変わらぬ口調で顔を紅くして返すリリス。
だが、手元には微かに氷の結晶が残っていた。
蓮は一瞬だけ、その指先に視線を落としたが──
何も言わず、静かに去っていった。
「…………」
その背中を見送りながら、リリスは自分の胸元を押さえる。
「……まだ、制御が甘いな」
(あれが……本当の力……!)
(師匠……神……ですっ!)
その日以来、雅の中でリリスの存在は「神話的存在」へと昇華した──
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