第37話「お師匠様」
──天明寺、早朝。
境内にかすかに鳥の声が響く頃。 掃除をするリリスの背後に──
「おししょーさまっ!!」
雅が元気よく飛び込んできた。
「また来たか、貴様……」
リリスは早朝の空気を乱されてげんなりした表情を浮かべる。
「今日こそ“魔法”の使い方、教えてくださいっ! ですっ!」
「断ると言っておろうが……」
──食事中
「今日こそ“魔法”の使い方、教えてくださいっ! ですっ!」
「食事中じゃっ!静かにせんか……」
──入浴中
「おししょーさま! 水の波動を感じ取る訓練っ……ですね!? 水着は持ってませんけどっ!!」
「な、な、な、な、なぜ、湯浴み中に入って!待て!脱ぐなっ!」
──数日後の朝。
ついに──
「おししょーさ「えぇいっ!わかった!教えてやるっ!」」
「わーいっ!! 弟子認定、正式いただきましたっ……ですっ!」
「そんなことは言っておらぬ!」
叫ぶリリスをよそに、雅はノートを片手にぴょんぴょん跳ね回っていた。
─天明寺の裏庭。朝。
澄んだ空気の中、リリスと雅が向かい合って立っていた。
「……では、修行を始めるぞ」
ピシッと背筋を伸ばしたリリスが、右手を雅の前に差し出す。
「そなた、“これ”が見えるか?」
「うぅーん…………なんか、右手だけモヤッとしてるような……気が……します?」
リリスは眉を寄せ、ふむ、と一つ頷いた。
「……なるほど。そなたは恐らく、魔力そのものが視認できるのではないな」
「えっ!? で、でもっ、なんか雰囲気はっ……!」
「魔力は本来、目ではなく魂で感じるもの。そなたの“霊感”とやらが働くなら、感知の可能性はある」
「か、感知……!」
雅がこくこく頷く。やる気は満々である。
リリスは袖を払って、一歩前に出た。
「ならば、魔力自体を知覚できるようにせねばならぬ」
「はっ! どうすれば!」
リリスは堂々と答える。
「……人間界に古くから伝わる、由緒正しい修行法を試すとしよう」
そう言って懐から一冊の布で覆われた本──“古文書”を取り出した。
「これは……我が魔界に伝わる修行の書。そなたに試してみせる」
それを見た雅の目が、爛々と輝いた。
「ま、まさかそれは──!
古来より伝わる魔導書《封印写本アカシック・コード》……とかっ!!?」
「……いや、ただの古文……いや、魔導書じゃ」
「し、師匠……まさかそれを私のために……!」
「……う、うむ、まぁ、お主の熱意に負けたのじゃ」
リリスは真剣な表情でページをめくり、指で一行をなぞった
「これに従えば、人間界でも魔力を高める修行ができるはずじゃ」
「さ、さすが師匠……、です!」
「……ふむ。まずは“視線の波動で相手の気を乱す技”。これが初歩らしい」
「し、視線の……? つまり、“目で倒す”……!?」
「然り、相手を視線だけで釘付けにし、最終的には微笑むだけで心の臓に矢をさせるとか………」
「そ、そんな危険な技がっ…これこそまさに魔眼です!!」
雅はメモを握りしめながら、きらきらとした目でリリスを見つめた。
次回、「ときめき☆魔眼講座(初級)」
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