第34話「胸元は神秘」
──夜の天明寺。
虫の音もまばらになり、静かな境内を澄んだ月光が照らしていた。
縁側には、並んで腰掛ける蓮とリリス。どこかぎこちない沈黙が続いていた。
「……リリスさん」
蓮がふいに口を開く。
「……鍵に関して何かヒントになるようなものとかあるんですか?」
リリスは少しだけ頷いた。
「ない。だが……」
言いかけて、リリスは胸元にそっと手を添える。
その仕草に、蓮の視線が一瞬、揺れた。
「……見せておきたいものがある。そなたにだけ、な」
リリスは襟元に手を差し入れ、小さな銀の鎖を引き出した。
「っ……!」
蓮があわてて目を逸らす。
「な、なにゆえそっぽを向くのじゃ?」
「い、いや、なんとなく………!」
「ふむ?変な男じゃ」
ぽそりと呟きつつ、リリスはその手から、虹色に揺れる小さな結晶のペンダントを見せた。
「これは……?」
「亡き母上からもらったのじゃ。10の頃にプレゼントされたものじゃ──“いつかあなたを助けてくれる”と、渡された。……それが、なぜか今でも手放せぬ」
静かな語り口に、ふだん見せぬ柔らかい気配がにじんでいた。
「……鍵、かもしれないんですね」
「そうであれば良いのじゃがな。……正直、分からぬ。けれど、我のなかでは──何か大切なもの、という気がする」
リリスはそっとペンダントを握り、膝の上に置いた。
そのまま、しばらく言葉もなく、夜の空気を感じていたふたり。
やがて──
「……そろそろ、休むとしようかの」
「ですね。冷えますし……風邪、ひかないでくださいね」
「ふむ、心配されるとは……悪くないの」
そう言ってリリスは、微笑んだ。
* * *
──その夜。
寝台に横たわったリリスは、静かな天井をぼんやりと見つめていた。
(……なぜ、あの男の顔が思い浮かぶのじゃ……)
自分でも気づかぬまま、頬がほんのり赤くなる。
(……もう、眠るか)
そっと目を閉じたそのとき──
彼女の胸元で、ペンダントがふわりと、淡い光を放った。
明滅するでもなく、ただ、息をするように。
誰にも気づかれぬその光は、静かに夜の闇に溶けていった。
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