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第28話「リリス、はじめてのおつかい」
夕暮れ前。寺の台所には、刻まれる野菜の音と、静かな湯気の立つ香りが満ちていた。
「……あ、醤油が切れてた」
蓮が包丁を止めて、棚の中を軽く覗き込む。
「──む?」
その声に反応したのは、ちゃぶ台で手持ち無沙汰にしていたリリスだった。
「ふふん、それならば──我が、買いに行ってきてやろう!」
「え?」
「夕餉の支度に必要なのだろう? ならば、我に任せておけっ!」
手を腰にあて、胸を張るリリス。
いつになく気合の入った目で、リリスは買い物袋を握りしめる。
「じゃあ、バルさんと一緒に──」
「ひとりで行くっ!」
ピシッと指を立てて遮るリリス。
「……え?」
「蓮の役に──いやっ、ち、違う! ……頼りきりでは、進歩がないゆえなっ!しょ、ショーユを買ってくれば良いのだな? 任せておけ! すぐ戻る!!」
そのまま勢いよく玄関に向かい、パタパタと飛び出していった。
「いってきま──」
バタン。
──静かになった台所。
「……大丈夫っすかね?」
後ろからひょっこり顔を出したバルが、呟く。
「…………。」
蓮は、リリスがいなくなった玄関をしばらく見つめていた。
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