第27話「芋けんぴは魅了の呪菓」
朝の境内。
掃除も終わって、寺には穏やかな空気が流れていた。
「蓮兄ぃ~、この花の名前ってなんて言うっスか?」
「これは彼岸花ですね」
「へぇぇ、すげぇっス~!さすが蓮兄ぃっス!」
バルは今日も蓮にぴったりくっついている。
無邪気に距離を詰める姿に、リリスの眉がぴくりと動いた。
(……なんじゃ。なぜ、あやつばかり構ってからに……)
蓮はというと、嫌がるでもなくにこやかに応じていた。
その穏やかな表情が、リリスの胸の奥に奇妙なもやを残す。
──もっと、自分に…………
そのとき、ふとリリスの脳裏に“知識”がよぎった。
(……そうじゃ、古文書に……)
思い出したのは、一冊の“人間界戦術書”の一場面。
長い髪の少女。その髪には、棒状の甘い菓子がくっついていて──
その少女は、意中の男から菓子を奪われ、食べられていた──
(……ま、間違いない。魅了術……いや、呪菓による高等魔術っ!)
思わず拳を握りしめるリリス。
その目には、かつての古文書から得た“戦術”を信じて疑わぬ光が宿っていた。
彼女はこっそり寺の台所へ向かう。
そこで発見したのは、運命の品──黄金に輝く「芋けんぴ」だった。
金色に輝く“呪菓”。
リリスはそれを慎重に手に取り、自分の髪の一房に、そっと──
(これでよし。角度は完璧……!)
そして、何事もなかったかのようにふたたび庭に戻った。
「……い、いい天気じゃのぅ」
やや不自然に正面からだけアプローチしようとしながら、リリスが姿を見せる。
だがその髪には、明らかに違和感。
右側のハネた髪に、ぴったりと芋けんぴがくっついている。
「……………」
「……………」
「……あの、リリス様。髪、なんか……髪についてますけど……?」
「なっ──!? な、なんでもない!! これはっ、戦術の一環であって!!」
リリスは勢いよく髪を手で隠す。だが、粘り気を残した芋けんぴは、しっかりと髪に食らいついたまま。
(や、やだ─取れないっ!手にベタベタが……!!)
恥ずかしさと情けなさが一気に押し寄せ、リリスの目が潤む。
思い出すのは──古文書の中の1ページ。
“髪から菓子をとって食べられる”甘いシーン。
(わ、"私"は何を期待して……っ!?)
地面を見つめ、肩がかすかに震えた。
──そんなリリスの様子に、蓮がふと口元を抑えた。
「………………」
その肩が、ふるふると震えている。
「っ……くふっ」
「れ、蓮…………?」
「い、いえ……失礼しました。芋けんぴが、よくお似合いだったもので……」
「ううう、そ、そうか……そうであろう……!」(真っ赤)
(……え? ちょっと……効いた?)
少しだけ嬉しそうにリリスが目を伏せる。
彼女の髪には、まだ粘着したままの芋けんぴが揺れていた。
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芋けんぴが食べたくなった…




