第23話「任務完了ッス」
朝食を終えた縁側。
空にはすっかり朝の陽射しが広がり、風鈴が涼やかに鳴っている。
「して、バル。父上への報告はどうするのじゃ?」
「……ッ!」
寝転がっていたバルの顔が、一瞬で青ざめる。
「あ゛ーっ……! やっべ! 完全に忘れてたッス!!」
慌てて立ち上がると、足早に庭を駆け抜ける。
「い、今から報告してくるッスー!!」
──しばらくして。
「……あれ? バルさんはどこに?」
蓮が三人分の湯呑を手に、縁側に戻ってきた。
リリスはそのひとつを受け取りながら、ふと口を開いた。
「うむ。どこぞへ走り去っていった。……まぁ、じきに帰ってくるであろう」
──魔界・魔王府、地下区画。
通信魔法専用の部屋──通称「魔界通信部」。
そこに、ひとり仁王立ちで足を鳴らしながら落ち着きなく待つ男がいた。
「まだか……まだか……!」
魔界軍司令グラント。
直属部下バルの“極秘任務”報告を魔法自動筆記で待ち続けている。
「なぜこうも遅い……いや、任務が困難だったのか……まさか、リリスに近づく男が──ッ!」
ぶつぶつ呟きながらソワソワしているその姿は、どう見ても過保護な父親である。
「……何が“まだ”なのですか?」
「ッ……ゴホンッ! ご、極秘任務の件だ!」
「極秘任務……ですか?」
「う、うむ。そろそろ連絡が来ても良い頃合いじゃが……」
そんな時、空間に淡い光が灯る。
魔法陣が浮かび、ふわりと光のページが舞い降りた。
「おお……きたきたきたっ!!」
グラントはそれを掴み、わくわくとした目で内容を読み上げる。
「“蓮兄、パないッス”……?」
一瞬、時が止まった。
「……は?」
「なっ……なんじゃこりゃあああああああああッ!!?」
部屋中に轟く爆音のような叫び声。
通信部の壁が震えるほどの勢いで、グラントは紙を振り回した。
「報告これだけかぁ!? 蓮兄!? パないッス!?どういうことだっ!?」
紙を丸めて床に叩きつけ、歯を食いしばるグラントの額には怒りの血管が浮き出ている。
「こ、こうしちゃおれん……人間界に直行して……ん?」
ふと、背後に気配を感じる。そもそも誰と会話していた……?
ギィィ……と、ぎこちなく振り返った先にいたのは──
完璧な作り笑いを浮かべた片眼鏡の男
「……父上。“極秘任務”について──詳しく、お話をうかがってもよろしいでしょうか?」
グラントの長男にして、魔王府参謀本部副長官。
「り、リオル……? な、なぜここに……!?」
「偶然です。通信部に忙しなく入っていく姿を見たので確認に来たまでです」
「そ、それは……あの、その……ち、違──」
「では、説明は地下謁見室でうかがいましょう。」
「や、やめ──ぎゃあああああああッ!!」
──そして再び、魔界通信部は静寂に包まれた。
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