第22話「正座はつらいッス……」
ガミガミと雷が落ちていた。
「だから貴様は……! 勝手に地上に降り立ち、迷子になり、はたまた蓮に殴りかかるとはどういうことじゃ!」
仁王立ちのリリスの前で、バルは正座してうなだれている。
「うぅ……も、申し訳ないッス……」
叱られるたびに、バルは少しずつ小さくなっていく。
部屋の空気が、さらに張り詰めていく──。
──そのとき、静かに様子を見守っていた蓮が、湯呑を置いて口を開いた。
「リリスさん。そろそろ、そのくらいで」
「……むっ」
リリスがふと、蓮に目を向ける。
その視線を受けて、怒りの温度がほんの少しだけ下がった。
「ふ、ふんっ……命拾いしたな、貴様……!」
ツンと顔をそらして、ぷいと背を向けるリリス。
「事情はわかりませんが、ケガもないですし──もう許してあげてください」
「申し訳ないッスぅぅぅ……!」
「れ、蓮が言うのだから、しょうがない。許してやろう……しかし二度目はないからなっ!」
「は、はいッス!」
バルが深々と頭を下げた、そのとき──
「ぐぅ~~~~っ……!!」
響いたのは、遠慮のない腹の音。
場に沈黙が走る。
「……今のは……」
バルが顔を真っ赤にしながら、小さく指を立てる。
「空腹による、一時的現象ッス……」
「……ほんに、お主というやつは……」
蓮が微笑みながら、穏やかに声をかける。
「よかったら、夕食ご一緒にどうですか?」
「え、いいんスか!? ありがた幸せ……!」
「我も腹が減ったしの。さ、台所へ参ろうか」
「うぉぉぉ……! 人間界でこんなあったかい対応……涙が出るッス……!」
「泣かんでよい」
夕暮れ、ちゃぶ台を囲む三人。
蓮とリリスが並び、バルは少し距離を取って座る。
炊き立てのご飯、味噌汁、焼き魚、煮物──和の香りが湯気にのって立ちのぼる。
バルはスプーンを持つ手を震わせる。
「う、うまっ……! なんスかこれ、やばいッス! 蓮兄ぃパないッス!飯まで神域……!」
「落ち着け。蓮が作ってくれたのじゃ、感謝して食せ」
「は、はいッス! 全霊で感謝するッス……!」
その横でリリスは、ちらりと蓮の横顔を盗み見る。
(……蓮の言葉で、私は……すぐに怒りを引っ込めたのか……)
自分の単純さに、少しだけ頬が熱くなる。
それをごまかすように、黙ってご飯を口に運んだ。
夕食を終え、畳の上にごろりと寝転んだバルが、幸せそうに息をついた。
「くぅ……任務で来たのに、心が癒されたッス……」
腕を枕にしながら、気の抜けた顔で天井を見つめている。
「まったく、図々しいやつじゃ……人様の敷地でくつろぎおって……」
隣で静かに湯呑を置いた蓮が、穏やかな笑みを浮かべる。
「疲れていたのでしょう。……休ませてあげましょう」
その優しい言葉に、リリスはふっと小さく息を吐く。
「……本当に、世話の焼ける……」
呆れたように呟きながらも、口元がほんのりと緩んでいた。
風鈴が、チリンと鳴った。
夏の夜風が、ふわりと三人の間を通り抜けていった。
気に入っていただけたら、評価・ブクマで応援してもらえると嬉しいです。




