第21話「ご愁傷さまです」
赤髪の青年は正座していた。
その肩は震え、顔は畳にすりつく勢いで伏している。
「して、なぜ貴様がここにおる?」
リリスが仁王立ちで腕を組み、眉をひそめる。
後ろでは、蓮が湯呑みを傾けながら静かにお茶を飲んでいた。
「そ、そのー……」
「なんじゃ。我には聞かせられんことか?」
「実はその……お父上様から、極秘任務を……ッス……」
バルは消え入りそうな声で言った。
リリスは呆れたようにため息をつく。
「……どうせ父上が何か吹き込んだのであろう。連絡がないのを案じて、貴様を差し向けたのじゃな?」
「そ、そうッス! それっス!」
「──して」
リリスの声が、唐突に冷える。
「蓮を殴りつけたのは、何故じゃ?」
その瞬間、空気がぴきり、と張りつめる。
風鈴が鳴る音すら、止まったかのように静かになる。
バルは顔を上げかけるが、すぐに伏せ直す。
「そ、それはッ……! その……リリス様の“男”だと……勘違い……して……ッ」
ぴきり、と張りつめていた空気が──唐突に、ゆるんだ。
「…………っ」
リリスの頬が、じわじわと染まっていく。
「……ばっ、ばかっ……!」
怒気は消え、代わりに現れたのは、乙女のように視線を泳がせるリリス。
前髪を人さし指で絡ませながら、くるりと背を向ける。
「な、何を口走っておるのじゃ貴様はっ……」
気温が戻る。風鈴が、チリンと鳴った。
バルがこっそり顔を上げる──
(……あ、なんか……空気、緩んだッス)
しかし──
「──それでも、殴ったという事実は、消えぬがな?」
くるりと振り返ったリリスの顔には、照れの気配はなかった。
それは“裁きを執行する者”の顔。
「ひぃッ!!」
バルは再び正座を深め、土下座姿勢で震えだす。
そして、後ろから──
「……ご愁傷さまです」
蓮が、茶をすすりながら静かに一言つぶやいた。
「どっひゃあああああああ!!」
バルの絶叫が、寺にこだました。
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