第2話「追加調査という名の通寺(つうじ)開始」
人間界での研修──
魔王候補として、私は“寺”を調査することになった。
だが。
初訪問での予期せぬ異常事態により、調査対象の再評価が必要となった。
要するに──
あの僧侶が、どうにも気になる。
「というわけで、今日から毎週木曜は“戦略的拝観日”とする!」
リリスは魔界の空き家サロン(仮)にて、勝手にスケジュールを決定。
部下はいない。独り言である。
けれど、私は本気だった。
──*──
そして迎えた木曜。
私は例の寺を再び訪れた。もちろん“調査”だ。
ただ、タイミングよく彼にまた会えたら嬉しい──
じゃなくて、都合が良い。分析に効率がいい。
……という建前を持って、境内を歩く。
「またお会いしましたね」
──現れた。
現れたのだ。
例の僧侶・天川 蓮。
なんて偶然……! じゃなくて、ありがたい再会!
「あなた、もしかして……よく寺巡りされてるんですか?」
「ちょ……ちょくちょく。定点観測的な。いえ、観光的な。いえ、学術的な目的で……その、文化的な……」
語彙が散らかった。
落ち着け、リリス。顔が熱いのはきっと太陽のせい。
蓮は変わらず柔らかく笑って、「よかったらお茶でも」と本堂の裏手に案内してくれた。
──人間界、優しすぎる。僧侶、好感度高すぎる。人類、こんなに寛容?
お茶を受け取り、正座をして向かい合う。
沈黙。ちょっと緊張。
その時、蓮がゆっくり口を開いた。
「先日、ずっとこちらを見つめていらっしゃいましたよね。なにか、気になることが?」
(ば……ばれていた!?)
(いや待て、焦るな私。あれは分析だった。感情ではない!)
(……そう、たとえば──)
「……その、……耳が……整っておられたので……つい」
「耳?」
「いえ!! ちがいますっ! 響きがいいというかっ!! その……寺の反響音的なっ……!」
ああもう、終わった。
死にたい。いやまだ死ねない。人間界まだ観察してない。
でも蓮は、笑って「変わってますね」と言ってくれた。
……まって、それ、うれしい。なんか、胸がぎゅっとなった。
(……あれ?)
(この感覚……先週も……)
(いや、違う。これは──単なる酸欠だ)
──こうして、私はまたひとつ、謎の“感情”を胸に帰路についた。
任務は続く。調査も続く。
……たぶんこの先、もっと心が乱される予感しかしないけれど。
ただひとつ言えるのは──
私はこの男に会うために、また来るのだ。
……べ、別に、戦略的に!
戦略的に、だから!!




