第18話「極秘任務ッス!」
魔界、王城──。
重く沈んだ空気の中、黒曜石でできた玉座の間に、雷のように響く声が落ちた。
「──で、リリスは」
玉座に君臨するのは、魔界第七層を統べる魔界軍司令・グラント=ヘルバウンド公。
娘を溺愛するあまり、日々肖像画を増やし続けている。
「現在、人間界に潜伏中ッス! 場所は“てら”? っていう施設みたいっス!」
グラントの前に跪くのは、赤髪逆立てピアス付き、燃えるような瞳を持つ若き魔族、バル。
軽口が過ぎるが忠誠心だけはやたら熱い、筋肉自慢のヤンチャ者である。
グラントは低く唸ると、重々しい声で言った。
「バル。貴様に、極秘任務を命ずる。リオルには言うな。誰にもだ」
「ま、マジっスか!? 極秘っスか!?」
「──もしリリスに“男”ができていたら、物理的消滅を許可する」
「……物理的!? 消滅!? いやいやいやいや、それって“バコーン”ってやつで、跡形も──」
「ばかっ!! 声が大きいっ!!」
グラントがガッとにじり寄り、両手でバルの口を塞いだ。
「しーっ! しーっ!! リオルに聞こえるだろうが!!」
「ふ、ふごぉ……!」
バルは両手で自分の口を押さえ、足を広げて忍者のような謎のポーズ。
二人が静かになった──その瞬間。
扉の向こうから、冷ややかな声が降ってきた。
「何か……良からぬことをお考えで?」
ピシッ。
空気が凍る。
静かに、扉の奥から男が姿を現す。
グラントの長子にして、知性と毒舌を兼ね備えた冷血漢──リオルである。
その片目には、白銀の片眼鏡が光っていた。
その瞬間。
グラントとバル、反射的に肩を組んだ。
「いや〜〜〜リオルの話してたとこだよなァ!?」
「そッスそッス!! ほんっと尊敬してるっスから! リオル様マジ知将っス! 魔界一!!」
バルは謎のガッツポーズ。
「…………」
リオルはしばし二人を無言で見つめたあと、小さくため息をついた。
「はぁ……お前たち、リリスに余計な事をしたら承知しないぞ?」
冷たい視線を残して、リオルはすっとその場を去っていった。
扉が閉まったあと──
グラントとバルは、同時に肩から力を抜いた。
「……ぐ、グラント様どうしましょ……?」
「極秘任務は継続だ……直ちにリリスのもとに行けっ!」
「了解ッス!」