第15話「これは熱のせいだ、きっと」
朝の縁側。
蓮はいつもと変わらない穏やかな顔でしらたまを膝に乗せ、撫でていた。
「にゃあ……」
「気持ちいいのか? よかった」
その声に誘われて、柱の陰からリリスがそっと顔を出す。
(……大丈夫、昨日のことなど何事もなかったかのように……)
蓮が振り返る。
「リリスさん、おはようございます」
「っ……は、はい! おはようございま──ぐっ……!」
声が裏返った。
(あああああっっっ、顔、見られない! なにあの鎖骨! 夢に出てきたし!!)
リリスは顔を逸らし、柱の陰に戻る。
蓮は首を傾げたが、気にせずしらたまの額を撫で続ける。
「……今日もいい天気ですね」
「そ、そうですな! まことにっ、良い空模様であるっっ!!」
(なんで大声……わたし、何キャラ!?)
その後も朝食中、蓮が茶碗を差し出せばスプーンを取り落とし、
台所で背中がすれ違えば炊飯器の蓋を閉め忘れる。
全ての動作がぎこちない。
(我は魔王候補、動じるはずが──)
「リリスさん、顔赤いですよ? 風邪ですか?」
「ち、違うっ! これは熱などではなく! ただの……その……人間界の気候に体が……」
「無理しないでくださいね。何かあったら言ってください」
蓮の言葉はあまりに優しく、あまりに普通すぎて、
リリスは言葉を失った。
(うぅ……こやつ、本当に何も覚えておらぬのか……それとも気づいておらぬのか……)
しらたまが膝の上からリリスをじっと見ている。
「……な、なにを見ておる。おぬしに心など読まれてたまるか……」
しらたまは一声「にゃあ」と鳴いて、再び蓮の膝に収まった。
その姿にリリスは小さく唇を噛んだ。
(あれだけ密着しておいて、何もなかった顔とは……!)
そして決める。
(こうなったら……忘れたふりを貫くしかないっ! そして──)
(次は我が……あやつを、ドキドキさせてやるのだっ……!)
初回エピソードの加筆し、大幅改稿しました。魔王候補の理由付けなど細かいところの話の調整をしましたので宜しければご覧くださいm(__)m