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第13話「魔界父、娘が気になりすぎて仕事が手につかない」

──魔界・第七層、王城・謁見の間。


 


「……三十七日と十一時間……娘の姿を見ていない……!」


 


玉座に手を突き、深いため息を吐くのは、魔界軍司令・グラント=ヘルバウンド公。

魔王に次ぐ権力を持ちながら、いまや“娘不足”で心ここにあらず。


 


「父上、深呼吸を。冷気が漏れ出ています」


 


黒曜石の柱にもたれた男が、やや低めの声でそう告げる。

漆黒の軍装に身を包み、冷色の髪を後ろで結った青年──リオル=ヘルバウンド。


左目には、銀縁の片眼鏡モノクルが静かに光を返していた。

整った顔立ちに抑制の効いた表情、軍人然とした姿勢が、周囲に緊張感を漂わせる。


 


魔王府参謀本部 副長官

冷静沈着、任務第一の男であり、リリスの実兄である。


 


「リリスが……リリスが帰ってこない……!」


 


「帰ってこないも何も、長期任務です。行動計画の範囲内です」


 


「だが、地上は危険だぞ! 空気も違えば、文化も混沌……」


 


「──彼女は、その“混沌”に強いタイプです。ご存知でしょう?」


 


グラントは沈黙する。

リオルは静かに手元の報告書を開いた。


 


「本日の報告です。リリスは現在、東京郊外の“寺”に下宿中とのこと」


 


「……て、寺……? あの、信仰と禁欲の殿堂では……?」


 


「ええ。ただし、あくまで下宿先です。住居確保が難航した結果、偶然たどり着いたようです」


 


「ぐぬぬ……それにしても、よりによって寺……」


 


「……そろそろ妄想と現実の線引きをお願いしたいのですが」


 


「そ、その中に若い僧侶がいたらどうする!? 人間で! 男で! 煩悩があって!」


 


「……仮にいたとしても、リリスが影響を受けるとは思えません」


 


「だがだな……娘の目が変わった気がしたのだ……この絵を見ろ、な? 『旅立ちNo.3』!」


 


グラントは壁の肖像画に駆け寄る。

その表情はやや涙ぐみ、額には汗。過保護父、全開である。


 


リオルは額に手を当てながら、一歩だけ前に出た。


 


「それは画家バルトの光処理技術です。表情ではありません」


 


「ぬぅ……!」


 


「父上。リリスは任務に集中しています。現地環境にも順応していますし、今のところ“魔力変調”の兆候もありません。精神面も安定しています」


 


「……そ、そうか……それならば……」


 


「ですので、今は信じてください。──娘を、ではなく“魔王候補リリス”を」


 


その言葉に、グラントの肩がすうっと落ちる。


 


「うむ……わかった……信じるとも……」


 


リオルは片眼鏡を押し上げながら、ぼそりとつぶやく。


 


「……まあ、顔を見るまでは安心できませんけどね」



 


※なおそのころ、リリスは縁側で猫に嫉妬していた。


 

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