表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/92

第10話「恋敵、それは猫」

午後の光が差し込む静かな時間。


掃き掃除を終えた私は、縁側の角を曲がろうとして──ふと立ち止まった。


 


その先に、蓮がいた。


スマホを耳に当てて、誰かと話している。


背中越しだから表情は見えない。けれど、声ははっきり聞こえた。


 


──「うん……そうだね、最近、気になる子がいてさ……」


 


(……え?)


 


私はピタリと動きを止めた。


(気になる子?)


 


蓮の声は続く。


「なんというか、近くにいるんだけど、ちょっと変わってて……」


(え?だれ!?)


「最初は正直、戸惑いしかなかったんだけど……」


(私!?違う!? 近所の誰か!?)


「……でも最近は慣れてきて、こっちから声をかけたくなるというか……」


(え、え、私?いや違う……でも!?)


 


私はそっと柱の陰に隠れた。


でも、聞こえてくる声を止めることはできなかった。


 


蓮「……だから、この猫にそろそろ名前つけたくなってきてさ」


 


──ねこ。


 


(ね こ)


 


私は静かにその場にしゃがみこんだ。


(……恋バナじゃなかった。猫だった。猫だったぁぁぁ……)


 


ほっと肩を落とし、縁側の柱から顔を出すと──


そこにいたのは、小さな茶色の野良猫。


細身の体が蓮の膝の上で、気持ちよさそうに丸まっている。


蓮が優しく撫でると、猫は「ニャァ」と小さく鳴いた。


 


(……なんか、すごいなついてる……)


 


ふとその猫がこちらを振り返った。


目が合った。


 


……勝ち誇った顔をしていた。


 


(……なにその顔!?)


(なにその“あたしのほうが先”みたいな顔!!)


(いや、たしかに可愛いけど!耳ふわふわだけど!)


 


蓮が笑いながら「よしよし」なんて撫でてるのを見て、私の中でふわっと何かが燃えはじめた。


 


(え、なにこれ……)


(このモヤモヤ、なんなの……)


 

その夜。


私は布団にくるまって、天井を見つめていた。


猫の顔と、蓮の優しい声と、「気になる子」って言葉が、頭の中でぐるぐる回る。


 


胸の奥が、もやもや、もやもや、ずーっとしている。


 


(この気持ち……なんなの……?)



──そして私は、その夜、全然眠れなかった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ