侍女−ミア
幸い、レンが行く北西行きの列車は三十分後に来た。
「えーと、Aの三番地はミスタン街の…って『20583の48』って何なんだ?」
レンの持った煙草の箱には、ビリビリに破れた地図の代わりに書いておいた住所の番号が記されてあった。と言っても、少女が書いたものだが。
「ま、行くか」
レンはスーツケースを持って、ミスタン街に一つしか無い駅に降りた。降りた駅は廃駅と言ってもいいほどで、腐り落ちていた。何処からか腐敗臭がただより、足元を鼠が駆け回っていた。駅には錆びれたベンチに男が縮こまっているだけで他の人影はない。果たして生きてるのか、死んでるのか。
「_おーい、おっさん」
レンが男の肩を揺すったが、反応はなかった。
「死んでるわー。終わった。道わかんねぇ」
と言いながら、新しい煙草を一本取り出した。
「影欒様でしょうか?」
レンが火を付けようとライターを取り出そうとしたときだった。改札口から女性の声がした。女性はどこかの貴族の家の侍女の格好をしていた。黒いメイド服に首元には赤い宝石。胸元にはアデリー家の紋章が縫われていた。
「アデリー家の侍女長のミアでございます。こちらの不手際でクソおん…いえ、ヒナタお嬢様が影欒様に依頼を出してしまったようなのです。申し訳ありませんが、お引き取りください。料金は倍のお値段をお支払い致しますので」
「え、無理」
レンは躊躇うことなく言い切った。
「ウチは依頼主に誠実なんで、第三者は関われないんですよ。あと行かなきゃボスにクソ高いメシ奢ってもらえねぇし」
「お、お嬢様は病に伏せれれておりまして」
「聞こえない聞こえない」
レンはスーツケースを持って、ミアの横を通り抜けた。
「お待ち下さい!お嬢様はもうご結婚されておりまして…」
言い訳をコロコロと変えていくミアにレンは足を止めて、スーツケースから『あるもの』を取り出した。
「ミア、だっけ?」
「!」
レンはミアの下顎に銃口を当てた。
「依頼主様が殺したいのはお前かもね」
「っ」
銃口が離れたミアは崩れ落ちた。その顔には恐怖が刻まれていた。
「申し訳ございません…」
震えているミアを横目に、レンは駅を抜けた。
地平線まで広がった黄金に輝く穂がレンを出迎えた。
「いや分かりやすー」
ただっ広い麦畑の中に屋敷がぽつんと建っていた。
「絶対あれやん」
レンは苦笑しながら銃をスーツケースに戻した。




