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世界最強の殺し屋と愛を知らない少女  作者: 白唯奏


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7/9

偉大なる大老 (後)

 「お主には関係ない。我はお主を殺すぞ」

と追い払うが、少女が前に出てきて道を塞いだ。

「わたしを連れてって」


「……………………好きにするがいい」

  

ヨーラと名乗った少女は、好奇心旺盛だった。花を見ては食べれるか聞き、死体からニンゲンの肉を取ってきては口に入れようとする。

「食べれる?」

ヨーラが道中で捕まえたヘビを持ってきて言った。見るからに毒ヘビだ。

「腹が減ってるのか?さっき食べたばかりじゃのに」

「食べたのは一昨日!」

「そうじゃったか。まあ、それはやめとけ。毒じゃ」

ヨーラは残念そうに肩を落とした。そして、ポケットから肉の塊のようなものをだした。

「じゃあこっちは?」

「それは腐っておる」

それを何度か繰り返して、食べれるものがなかったのか、ヨーラは「捨ててくる」と言って近くの川へと走っていった。

が、いつまで経っても帰ってこない。しかたなく、川に向かった。

「何をしてるんじゃ?」

川岸から動かないヨーラの隣に立った。見ると、ヨーラは川の向こう、小さな集落から離れたところにいる親子をじっと見ていた。親子はこちらに気づくことはなく、川で遊んでいた。子はヨーラと同じぐらいの年頃にみえる。

「家に…帰り、たい」

「………………」

「帰りたいよぉ」

泣き出したヨーラに掛けれる言葉がみつからず、立ち尽くした。

しばらくして、親子が立ち去ったとき我は口を開けた。

ヨーラも落ち着いており、涙跡が残った顔を川で洗っていた。

「お主の家はどこにあるんじゃ?」

「もうない。潰れちゃった」

それ以上ヨーラは話さず、川向こうの集落へと歩いていった。


 「ヨーラ」

何年か経った。

ヨーラは、我と同じぐらいの身長になっていた。

「お主は学校に行ったほうがよい」

「?がっこう?」

「そうじゃ。いろんなことを学べるぞ。友達もできるかもな」

「がっこう行ってみたい!」

飛び跳ねて喜ぶヨーラを連れて、とある村へと向かった。

それは、ヨーラと初めて出会った村だ。

死体は綺麗に消え、新たな人が住み始めていた。

「また殺すの?」

「何かある限り殺しはしない。住むのじゃ」

「人探しは?」

「主様のことはしばらく我ひとりで探すつもりじゃ」

ヨーラと話しているうちに、住む予定の家に着いた。

その家は綺麗に手入れされており、花が咲く庭がある。

「ここが家?すごい!お城みたい!」

「気に入ったか?ここは、主様が我にくれた家なんじゃ。手入れは村人たちがやっているのじゃろう」

家は2階建てで、ちゃんと家具もそろっている。そして、金庫には数年は暮らせるであろうお金がたんまりとあった。

 その日から数週間は、村で食材をかったり、学校に行く準備をした。

そしてヨーラが学校に行くようになってから、我はまた主様を探し始めた。ある時は数日、帰ってこないときもあった。 だが、ヨーラは一人でも家事をこなし、帰ってきたときには学校のことを話してくれていた。

それからまた2日あけて帰ってきたとき、家の庭から悲鳴が聞こえた。しかし、その悲鳴はヨーラではなかった。

慌てて庭に行くと、血まみれのヨーラと3人の子供がいた。子供は、性別も分からないぐらいに殴られており多分死んでいる。

ヨーラが振り返った。手には、我が家に置いておいたハンマーが握られていた。

「あ、師匠」

それは、ヨーラが初めて我を『師匠』と言った日だった。


 話を聞くと、その子供らはヨーラと同じ学校の生徒らしく、ヨーラの友達を虐めていたから殺したという。

死体はいま、事故死として山に捨ててきたが、いずれヨーラが犯人だと分かってしまうだろう。その前に村人を全員殺すか、ここを出るか。

「ごめんなさい」

ヨーラが泣きながらいった。

「大丈夫じゃ。ヨーラは悪くない」

「でもっ」

「我に任せるのじゃ」


ヨーラが眠りについたころ、我は村人にハンマーを振り下ろした。


次の日の明け方。

家に帰ると、家の前に人がいた。金持ちそうな男だ。

「誰じゃ?」

背後から現れた我に、驚く様子も見せずに振り返った男が言った。興味深そうな、それでいて愉しそうな笑顔を見せる胡散臭いニンゲン。それが男に対する第一印象だった。

「君が、国一つを滅ぼした人だね?」

「…………知らない」

「質問を変えよう。君が、ハンマーで人を殴り殺し、ある人物を探している人だね?」

「………そうじゃ」

「話が早くて助かったよ。…はは、そんな目で見ないでくれ。私はただ、君たちを助けようとしているだけさ」

そう言った男は、家の窓から恐る恐る覗いているヨーラを差した。

「助けは必要ない」

「私もそう思うさ。君は強い。だがいつか助けが必要な日がやってくるだろう」

男の目は真剣だった。さっきまであった胡散臭さは無くなっていた。

だがそれは、我にとっては見慣れたものだった。嘲笑いながら罵倒していたニンゲンが自身が下だと分かった途端、表情を変え、命乞いをするニンゲンと一緒だ。どうせ、態度を変えれば話を聞いてくれるのだと思い込んでいるのだろう。

「必要ない。我は一人でできる」

そいつは、そうですか、と言って立ち去るような男ではなかった。

さっきよりも丁寧な笑顔をして、お辞儀をしてきた。

「申し遅れましたね。私は、とある殺し屋組織のリーダー、『詠隠』のサルジュです。単刀直入ですが、殺し屋に入りませんか?」

「………………もし、我が……我らが殺し屋に入ったら」


__殺しを認めてくれるのだろうか。


「師匠」

ヨーラの声がして、目が覚めた。眠っていたらしい。はたまた気を失ったか。

「大丈夫ですか?」

ベッド体を起こすと、さっきの男と目があった。

男は、他人の家なのにまるで自分の家のように優雅に紅茶をのんでいた。

「帰れ。ここは我の家じゃ。入れた覚えなどないわ」

「そう仰らずに。…そこの可愛いお嬢さんが入れてくれたんですよ」

「ご、ごめんなさい、師匠」

ヨーラは視線を避けるように頭を下げた。その姿に男が笑い出した。

「笑うな」

「おっと、怖い怖い。ところでどうですか?殺し屋に入れば、()()()()()()()()()()()」 

「っ」

男は我が求めていた言葉をいとも簡単に言った。

「国一つ、いや世界中の人間全員を殺したって構わない。だから殺し屋に入ってくれ」

「なぜじゃ。なぜ我らが必要なんじゃ」

「君という『兵器』が私には欲しい」 

男は間髪入れずに答えた。それ以外はないようだ。

「ならば取引じゃ。我、いや……偉大なる大老は高いからな」

口角が思わず上がる。信じてやろうじゃないか、この男を。我を認めた三人目のニンゲンを。

「だが、条件は簡単じゃ。我の行動に何一つ干渉するな。さすれば、お主の組織が滅び朽ちるまで協力しよう」


 _主様。我は変わってしまったのだろうか。いや、主様の為にと動いていた手足が、目の前の男の為に動く手足となってしまったからには我は変わってしまったのだろう。だがそれもそれで我は良いと思う。我は我だからな。

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