「殺人鬼だ」
本拠地から駅までは徒歩5分ほど。この駅は、北西に進む列車も止まる。
レンガ駅についた頃には、北西行きの列車が止まっていた。
「発車まであと5分か。席だけ取っとくか」
列車の席は大体が向かい合わせの4人席だ。乗客は少なく、まばらに座っているようだ。
レンは乗車口の近くの席にスーツケースだけ置き、駅にある売店に向かった。
駅は街の近くにあるため、そこそこでかい。昼間にもかかわらず人が多い。
「おばちゃん。いつものー」
「はいよ。レンくん、いつもありがとうねぇ。また仕事かい?」
「そーだよ。おばちゃんも頑張って」
レンは売店のおばさんから、コップに入ったコーヒーを受け取り、代金を置いた。
その時だった。
「おい!みんな逃げろ!殺人鬼だ!」
そう叫びながら、男性が走ってきたのだ。周りにいた人間は最初、不思議そうな顔をするが『それ』を見た瞬間、一目散に逃げ出していく。
駅は一瞬にして喧騒にのまれた。子どもが泣く声、人が叫ぶ声、物が倒れる音が響き渡る。
「!アイツ。…おばちゃんは早く逃げて」
「ま、待っておくれ。レンくんも一緒に逃げるんだよ」
「俺のことはいいから。早く行って」
それでもレンに手を伸ばそうとするおばさんが、周りの人に連れて行かれる。
駅にいた全員が逃げたようで、物音がしない。
「コロス、コロス、コロス…」
『それ』は、血のついたナイフを振り回しながらレンに近づいた。
「起きろ」
レンは『それ』にむかってコーヒーを投げつけた。コーヒーは見事『それ』の頭に的中し、中身がかかった。
「うっ…」
レンはそのまま、動き出そうとする『それ』の横腹に強く蹴った。『それ』は壁に全身を打ちつけ骨が折れたのか、短い悲鳴を上げた後、動かなくたなった。
「聞こえるか?」
「………………」
「ニーナ」
『それ』——————男とも女ともいえる体格をした青年は、レンを見た。
青年の、色素の薄いボブカットは血とコーヒーによって黒く染まっている。壁に打ちつけられた衝撃で青年の肋骨は折れ、肺に刺さっている。そのせいか、度々吐血している。
「レ、ンさま…?」
苦しそうにしているが喋れているのは、そういうことに耐性があるからだろう。もう、持たなそうだが。
「お前は」
そうレンが言ったところで、青年はバタリと倒れた。
同時に、どこからか列車の動く音がした。
レンの頼んだ『いつもの』とは、大量の砂糖とミルクが8割を占めているコーヒーのことです。激甘です笑
つまり、レンは甘党派……