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第31話:献身的な真実の愛と搾取する欲望(後編)

「ローラン、それだけは勘弁してください……」


羞恥にまみれた声で、ムーンは懇願した。


魔王討伐の旅を続けていた頃、ムーンはローランと何度も二人だけの甘い時間を共に過ごした。最初は紳士的だった彼も、関係が深まるにつれて、次第に新たな刺激を求めるようになっていた。


そして今夜――


ローランとムーンはサマルと泊まっていた宿を、深夜にこっそり抜け出していた。


向かった先は、繁華街の外れにある小さな宿。誰の目も気にせず、二人だけの時間を過ごすための場所だった。


ランプの明かりが、静かな部屋を淡く照らしている。ムーンはベッドの上に腰掛け、じっと床を見つめていた。


「なぁ、ムーン」


ローランが低く囁く。


「俺の前で、自分でやってみせてくれ」


ムーンの肩がビクリと震えた。


「……そ、そんなの……」


言葉の続きを飲み込み、唇を噛む。彼の言葉の意味を、ムーンは理解していた。


(そんなこと……できるわけがない……)


彼女は自分がどれほど恥ずかしいお願いをされているのか、分かっていた。


けれど――


彼の視線を感じるだけで、身体の奥に熱が生まれるのを止めることができなかった。


「……ムーン、俺の前で見せるのが恥ずかしいのか?」


ローランの声は優しく、それでいて試すような響きを帯びていた。


「俺だけが見るんだ。誰にも知られない。だから……」


彼の言葉は甘く、誘うように続いていく。


ムーンは震える手を膝の上に置き、ぎゅっと拳を握りしめた。


(どうして……こんなにも心が揺れてしまうの……?)


羞恥と戸惑いの間で揺れながら、彼女は小さく息を飲んだ。


「……っ……」


ランプの明かりが揺れる部屋の中、ムーンの細い指が、そっと動き始めた――。


王族の娘として生まれ、厳格な教育を受けたムーンにとって、「自分を慰める」という行為は、情欲に流されることと同義だった。


それは己に負けること。心の弱さを露呈すること。


だからこそ、幼いころから「そんなものは抑え込むべきものだ」と教えられてきた。


ましてや、それを男性の前で行うなど――もってのほかだった。


(……それなのに……)


今、ムーンはランプの明かりに照らされた部屋の中で、羞恥に震えていた。


「……っ、あ……」


唇から、かすかな声が漏れる。


熱い視線が向けられているのが分かる。


目の前にいるのはローラン。

彼の鋭くも優しい眼差しが、ムーンのすべてを見透かしているようで、どうしようもなく身体が熱を帯びていく。


(こんなこと……だめなのに……っ)


彼女は分かっていた。


これは、決して許されることではない。


厳格な王族の娘として、己の欲望に流されること自体、恥ずべきことのはずだった。


それなのに――


「……っ、ん……はぁ……」


自分の意思とは裏腹に、唇から漏れる声は次第に甘さを帯びていく。


羞恥と理性と衝動の狭間で揺れながら、彼女の意識は徐々に霞んでいった。


(どうして……こんなにも……)


彼の前で晒されること。


明るい光の下で、すべてを見られていること。


それが、背筋を震わせるほどの快感に変わっていく。


「……はぁ……っ、ん……んぁ……」


心の奥で、何かが音を立てて崩れていくのを感じる。


ムーンは、背徳に染まる自分自身を自覚しながら、ゆっくりと目を閉じた――。


明るいランプの灯りに照らされた部屋の中、ムーンの呼吸は次第に乱れていった。


「……んっ……ふぁ……」


最初は、微かに震えるような声だった。


けれど、それは徐々に甘さを帯び、掠れるような吐息が言葉にならない声へと変わっていく。


「……っ、ん……あ……」


理性が霞み、背筋がぞくりと震える。


(見られている……)


その事実を意識した途端、熱が身体の奥からこみ上げてきた。


「……ふぁ……んぁ……っ……」


喉が震え、声が自然と漏れ出してしまう。


ローランの視線が絡みつく。


それだけで、胸の奥が甘く疼いた。


「……ムーン……」


低く囁くようなローランの声が、耳元をかすめる。


「……ムーン、そんな声……いつもよりエロいな……すごく興奮するよ……」


囁きかけるような彼の言葉が、ムーンの羞恥をさらに煽る。


(やめて……そんなふうに言わないで……っ)


なのに、心とは裏腹に、身体は敏感に反応してしまう。


「……っ……あぁ……ふぁ……ぁん……っ……」


さっきまで押し殺していた声が、次第に長く、甘く、艶やかに響いていく。


「んぁ……あぁっ……ローラン……っ、ふぁ……ぁぁんっ……!」


喉が震え、声が大きくなるのを抑えきれない。


ローランが目を細め、熱を帯びた視線で彼女を見つめる。


「……ムーン……もっと、聞かせろ」


その言葉が追い打ちをかける。


「んぁっ……っ、はぁ……っ……あっ……あぁぁ……っ!」


羞恥と高揚が混ざり合い、意識がふわりと遠のく。


ランプの灯りが揺れ、静寂の中にただ、ムーンの甘い声だけが響いていた――。


「……俺、もう我慢できないよ……挿れていいか?」


ローランの低く掠れた声が、部屋の静寂に溶ける。


その言葉を聞いた瞬間、ムーンの全身が熱に包まれた。


「……っ、あ……」


息が詰まるような甘い痺れが、身体を駆け抜ける。


(わたしも……)


声にしようとしたが、うまく言葉にならない。


喉が震え、吐息が絡まるように漏れ出してしまう。


「……あぁ……っ、ふぁ……」


熱に浮かされるように、ムーンは瞳を潤ませながら、ローランを見上げた。


「……わたしも……っ……」


声は小さく、掠れている。それでも、その言葉に込められた熱は、十分すぎるほど伝わってしまう。


そして、二人は強く抱きしめ合いながら、激しく身体を重ねた。

いつも以上に熱を帯びた体温が、互いに伝わっていく。

ローランの瞳が熱を帯び、呼吸が次第に乱れていくのが感じられた。


「……っ、ムーン……」


囁かれた名前が、火照った身体にさらに甘い熱を注ぐ。


「……あっ……んぁ……っ、ローラン……っ……」


声が止められない。高鳴る鼓動に合わせて、喉の奥から次々に漏れ出してしまう。


「……はぁっ……んっ、あ……ぁぁっ……!」


身体が震え、意識が遠のくような感覚が押し寄せる。


「……っ……ぁ……ローラン……っ……!」


最後に震えるような声を漏らし、ムーンはぎゅっと目を閉じた。


ランプの灯りが静かに揺れ、二人の荒い息遣いだけが部屋の中に響いていた。


甘く蕩けるような余韻の中、ムーンはかすかに震えながら、そっと目を開ける。


(……今までで一番、気持ちよかった……)


意識の奥でそう思いながら、ムーンはゆっくりとローランのぬくもりに身を委ねていった。




「……んぁぁ……っ、はぁ……あっ……ふぁぁん……んんっ……ぁ……っ……」


ムーンは自分が果てた後もお構いなしに続く、後ろからの激しい突き上げの衝撃と甘い痺れに酔いしれる。自分の口から漏れだす娼婦のような声も気にすることはなくなっていた。


しかし、身体の満足とは別に、ムーンの心の奥には、言葉にできない不安が広がっていた。


(……わたし、どうなってしまうの……?)


両親に教えられてきた慎み深さ。

王族の娘としての品位。


それらからどんどんと逸れていく自分がいる。


そして、それを止めることもなく、むしろ求めるように仕向けるローラン。


(……わたしのこと、大切にしてくれているの……?)


心の奥にわずかに芽生えた疑問を、ムーンは必死にかき消そうとした。


ただ、身体は熱く、甘く痺れ、理性を奪われるような感覚に包まれていく。


「……っ、あ……ふぁ……」


漏れ出す声すら、まるで自分のものではないかのように感じられた。


目を閉じると、頭の中がぼんやりと霞んでいく。


その瞬間、不意に涙がこぼれ落ちた。


(……どうして、泣いてるの……?)


自分でも理由がわからないまま、ムーンはそっとシーツで涙を拭った。


ローランには、気づかれたくなかった。


(このままでいいの……?)


消えない不安が、静かに胸の奥で渦巻いていた――。



********************



サマルティア城の王子の寝室で、サマルは頭をポリポリと掻いていた。


実は、妻が彼の懐でひっそりと自慰行為をしていたことに気づいていた。


最初はただ、彼女の寝返りかと思った。だが、微かな息遣いの乱れ、震える肩、押し殺された甘い吐息――すべてが、彼女の秘めた行為を雄弁に物語っていた。


(……気づかれないようにしてたんだな)


サマルは目を閉じたまま、彼女のかすかな震えを感じながら、どうするべきかを考えた。


気づいていると伝えるべきか。

あるいは、ただそっと抱きしめるべきか。


けれど、ムーンが自分の疲れに気を使い、一人で慰めていたこと。

自分の行為がばれないように、声を押し殺しながら必死に耐えていたこと。


――その姿が、どうしようもなく愛おしく感じられた。


だからこそ、サマルは寝たふりを続けた。


起きる機会を失った彼は、結局ムーンが眠りにつくまで、息を潜めたままでいた。


そして――


ムーンは、静かに泣き出した。


はらはらと零れ落ちる涙。寝息の合間に、小さく嗚咽が混じる。


サマルは目を開けず、その音をじっと聞いていた。


(……どうせまた、ローランに酷い目にあった夢でも見てるんだろう)


彼の眉がわずかに寄る。


ムーンの涙の理由を、サマルは知っていた。


彼女の心には、まだあの男の影が残っている。


それを振り払うために、自分の中に抱きしめようと、サマルはそっと妻の肩を引き寄せた。


「……ムーン」


囁くように名前を呼び、彼女の髪にそっと唇を寄せる。


愛している。


だからこそ、彼女の涙が、どうしようもなく切なかった。


「……ん? ……サマル?」


ムーンの微かな声が、夜の静寂に溶けた。


サマルは、彼女を起こさないように細心の注意を払っていたつもりだった。だが、どうやらムーンの眠りは浅かったらしい。


彼女は薄く瞳を開き、ぼんやりとサマルを見つめている。


「……ごめん、起こしちゃったか」


サマルは小さく笑いながら、彼女の頬を優しく撫でた。


ムーンはまだ寝ぼけているのか、ゆっくりと瞬きを繰り返していたが、自分が涙を流していたことには気づいていないようだった。


サマルはふと、彼女の肩にそっと額を寄せる。


「……ムーン、お願いがあるんだ」


「お願い……?」


ムーンは眠たげな目を瞬かせながら、サマルの言葉を待った。


サマルはやさしげに微笑み、ゆっくりと彼女を抱き寄せる。


「ここのところ、ずっと激務でね……」


そう言いながら、彼は彼女の手をそっとブランケットの中に入れる。そして、自分の硬くなったものを押し付けた。


「……まったく余裕がなかったんだ。でも、今夜は違う。だから……お相手をしてくれないかな?」


サマルの声音は穏やかで、それでいてどこか甘さを帯びていた。


ムーンは一瞬驚いたように瞬きをしたが、やがてふわりと微笑んだ。


「……もちろん。喜んで」


彼女の瞳に宿るのは、揺るぎない愛情と、ほんのりとした照れ。


サマルはそんな彼女を抱きしめ、ゆっくりと唇を寄せた――。


サマルの腕に包まれた瞬間、ムーンの胸の奥にじんわりとした温もりが広がった。


(ああ……サマル……)


彼の手はどこまでも優しく、決して急かすことはなかった。まるで、ムーンの心を確かめるように、一つひとつを大切に扱ってくれる。


(ローランとは……違う……)


そう思った途端、涙がこぼれそうになる。


サマルは、彼女の心を無視することは決してなかった。ムーンがどう感じるのか、何を思うのかを考えながら、そっと寄り添ってくれる。


「……んっ……」


最初は、甘く小さな声が漏れた。


「……ふぁ……ぁ……」


ゆっくりと、優しさに包まれるような感覚に、心も身体も解けていく。


サマルの穏やかな息遣いが、すぐ近くで聞こえる。


「ムーン……大丈夫?」


囁かれた言葉に、ムーンは小さく頷いた。


(この人は、わたしのことをちゃんと見てくれる……)


「……んっ……あっ……ふぁ……ぁん……」


声が自然と甘く、長くなる。


サマルの指先がそっと頬をなぞる。その仕草に、ムーンの心がじんわりと満たされていく。


「……っ……はぁ……サマル……」


名前を呼ぶだけで、胸がいっぱいになる。


(ああ、幸せ……)


彼の優しさが、身体の奥にまで染み渡るようだった。


「……あぁ……っ、んん……ぁぁん……っ……」


瞳を閉じると、そこには安心感しかなかった。


サマルの愛は、どこまでも深く、どこまでも優しく――ムーンはただ、その幸せに身を委ねていった。


(……ああ……愛されてるって、こんなに幸せなんだ……)


ムーンの胸がじんわりと熱くなり、心が満たされていく。


「……っ、んぁ……サマル……」


呼びかける声すら甘く震え、彼の温もりに溶かされていくようだった。


サマルの手はどこまでも優しく、まるで壊れものを扱うように、彼女の身体を大切に包み込んでくれる。


それが、どうしようもなく愛おしく、涙が出そうになる。


「……はぁ……っ、サマル……」


彼が見つめてくれる。その瞳の奥には、ただの情欲ではなく、純粋な愛が宿っていた。


(わたし、この人と結ばれてよかった……)


そう思った瞬間、身体の奥から甘い波が押し寄せた。


「……っ、ぁ……あっ……」


震える声が、静かな寝室に広がる。


「……っ、あぁ……サマル……! すき……すきなのぉ……っ、も……もう……っ!」


言葉とともに、ムーンの身体がわずかに弾み、熱に包まれる感覚が全身を駆け巡る。


幸福と安堵、そして深い愛情に包まれながら、ムーンはゆっくりと瞳を閉じた。


(このままずっと……この人の腕の中にいたい……)


静かな夜の中、ムーンの甘い吐息がゆっくりと落ち着いていく。


サマルはそんな彼女を優しく抱きしめ、額にそっと口づけを落とした。


「……愛してるよ、ムーン」


その囁きが、ムーンの心に深く刻まれた。


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