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第3話:優しさの裏に潜む闇

「モノとして扱ってとお願いしたのに……あなたのそのやさしさが辛い。」


王女は涙を流しながらそう呟いた。その声は震え、部屋の静寂に溶け込むように消えた。


サマルティアの王子は、そんな彼女の姿を見つめていた。彼は微笑みながらも、心の奥底で、突如何かが生まれてくるのを感じていた。それは一言で形容するとすれば「闇」のようなものだった。


「君がそう言うのも無理はないさ。」


王子は静かに彼女の髪を撫でながら答えた。その優しい仕草は、彼女を安心させるためのものだったが、その微笑みの裏には別の思いが潜んでいた。


王子は知っていた。彼女がローランシアの王子への思いを完全に断ち切れていないこと。そして、その未練が、彼女にとって耐え難い苦しみとなっていることを。彼はその事実を受け入れた上で、自分の心の中に湧き上がる感情を否定することができなかった。


彼女が苦しむ姿が、どこか心を満たしている自分がいる。

サマルティアの王子は、自分がそんな暗い部分を抱えていることを薄々理解していた。彼女がローランシアの王子を想い続け、その想いが叶わずに自分のもとにやってきたこと。それが自分の中に優越感と満足感を生んでいるのだということを。


「君がローランシアの王子を好きなままでいい。それでも、君は僕のものだ。」


心の中でそう囁く自分がいた。それが彼女に対する愛情なのか、それともただの支配欲なのか、彼自身もわからなかった。ただ一つ確かなのは、彼女を苦しませながらも、その全てを受け入れているという事実だった。


王女は王子の胸に顔を埋め、泣き続けていた。その涙を拭おうとする王子の手に気づくこともなく、彼女はただ、自分の罪と苦しみを吐き出すように泣きじゃくった。


「私が、こんな私が、あなたの隣にいていいはずがない……」


その言葉に、王子は静かに耳を傾けた。そして彼女をそっと抱き寄せ、優しく囁いた。


「いいんだよ。それでも君は僕の隣にいる。それで十分だ。」


だが、その言葉の裏には、彼女の心が完全に自分に向かないことへの苦しみと、それを逆に楽しんでいる自分への罪悪感が隠されていた。王子の瞳の奥に、一瞬の冷たさが宿ったのを、王女は知る由もなかった。



********************



その後の日々、サマルティアの王子は決して王女を責めることはなかった。彼女の胸に未だに残るローランシアの王子への未練、それを知りながらも、彼はそのことに触れず、むしろ意図的に肯定するような言葉を投げかけた。


「君が彼を想う気持ちは、無理に消そうとしなくてもいいんだ。」


彼は微笑みながらそう言った。その言葉は優しさに満ちているように聞こえたが、その裏には彼だけが知る別の意図が潜んでいた。


「他の男を想いながらも、僕の隣にいる。それがどれほど甘美なものか、君にはわからないだろう。」


王子はその感覚に溺れていた。他の男を愛する女が、自分のものであり続けるという状況。彼女が苦しみながらも、自分の元に留まることで、自分が唯一の存在であると確認する瞬間。それは彼にとって、何物にも代えがたい満足感をもたらした。


王女がふと、旅の思い出を語る時があった。ローランシアの王子がどれほど勇敢で、どれほど優しかったかを涙ぐみながら話す姿を見て、王子の胸に小さな嫉妬が芽生えることもあった。だが、その嫉妬さえも、彼は楽しんでいた。


「彼を想って涙を流す君を見て、僕は君を抱く。そんな状況こそが、僕にとって最高の悦びだ。」


王子は自分が抱える暗い感情を理解していた。それが彼女への愛情とどこで交わるのかはわからなかった。それでも彼は、その関係を壊そうとはしなかった。むしろ彼女の未練を維持し続けることで、ローランシアの王子から彼女を寝取っているような感覚を楽しんだ。


王女は、王子のこの内心に気づくことはなかった。彼の優しさに救われる部分もありながら、無償で与え続けられる優しさにどこか釈然としない感情を抱くこともあった。それでも、彼女は自分が罪深い存在であると思い込んでいたため、彼の優しさを拒むことができなかった。


王子はその様子を見て、自分の選んだ道が正しいと思い込んでいた。彼女の未練と苦しみを肯定しながら、自分のものとして手元に置き続けること。それこそが、彼の愛の形なのだと。


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