18 前の契約者・佐吉
私たちが元いた場所に戻ってくると、石段の所に誰かいた。
その人は後ろ姿だったが、黒髪を上で1つに結んでいる男性とわかった。
「おぅ、連れて来たぜ佐吉」
佐吉と呼ばれたその人は、こちらに振り返り頭を下げた。
「はじめまして、ことねさん。私は佐吉と申します」
「は、はじめまして! ってあれ? なんで私の名前……」
「知っていますよ。ずっと見ていたんですから」
そう言って佐吉さんは微笑む。とても優しい雰囲気を持った人だなと私は思った。
「実は、私はあなたの前の契約者なのです」
「えっ! あなたが前の契約者さん?!」
「そんなに驚かなくても、セイリュウたちから聞いていませんか?」
「それが、聞こうとしても皆言おうとしないんです」
「あぁ……」
佐吉さんはなんだかさびしそうだった。一体何があったんだろう。
「立ち話もなんですから、少し座りましょうか」
「は、はい」
私たちは石段に座り、佐吉さんは話し出した。
「私は元々霊感があり、刀での戦い方もわかっていたので契約者に選ばれました」
「あー、だから皆最初の時に霊が見えるのかとか聞いてきたのか」
あれはこの人と比べられたということだ。今になって私は理解する。
「そして、この世界に現れる邪鬼を退治するようになりました。セイリュウたちと協力しながら戦っていました」
佐吉さんは話を続ける。
「しかし、ある時私の友人が邪鬼を生んだのです。それはいつもの邪鬼ではなく、異様な形をしていました」
「異様な形?」
「まぁ、あなたが村で見た邪鬼に近いかもしれませんね」
「あの邪鬼は人を食べて力を蓄えたみたいです」
「私が戦った邪鬼もそうでした。そして、戦っている最中、私は重傷を負い、それが元でその後死にました」
佐吉さんは話し終わると、私を見る。ってあれ、死んだってことは、もしかして……
「佐吉さんて、幽霊なんですか?!」
「そうですよ。大丈夫です、あなたにとりついたりしていませんから」
それを言われて私はほっとする。
「あなたはとてもわかりやすいですね」
「そ、そうでしょうか?」
「今回私が会いたかったのは、お願いがあったからなんです」
「お願いですか?」
私の問いに、佐吉さんは強く頷く。
「あなたは邪鬼の元凶を探してそれを失くし、皆が安心して過ごせるようにしたいと言ってくれました。だから、私も出来る限りのことはしたいのです」
「と言いますと……」
「あなたに、私の刀を正式にお渡しします」
佐吉さんにわき腹辺りを指さされて、私が確認すると刀を身に着けていた。
「あれ?! 私、刀なんて持ってなかったのに!」
「これは夢の中ですからね。なんだってできますよ」
そうだった。ここは夢の中だった。私は苦笑いを浮かべる。
「全く、嬢ちゃんは見ていて飽きないな」
キリンがキセルを持って笑う。
「か、からかわないで下さい!」
私が焦っていると、佐吉さんはくすくすと笑った。
「面白い方ですね。あー、話がそれてしまいました」
佐吉さんは笑うのをやめて、私をじっと見つめる。私も少し緊張してきた。
「その刀に私の力を注ぎます。これで邪鬼とも戦えるでしょう。すみませんが、刀を持って下さい」
私は言われた通り刀を平行に持った。
すると、佐吉さんは刀に手をかざした。少しして刀が光りだす。
「すごい! 刀が光ってるよ!」
「これでこの刀はあなたの物です。どうか、この世界を救って下さい」
「でも、私にそんなこと出来るんでしょうか……」
私が俯いていると、キリンが近づいてきた。
「安心しな、嬢ちゃん。俺も力が戻ってきているから、そばまで行けば邪鬼の元凶の場所はわかるぜ」
「そうなんですか?」
「邪鬼もどんどん力を増して強力になっています。どうかお気をつけて」
「はい! 大丈夫です、四神の皆もいますから」
「俺も、もう少しすれば外に出られると思うからそれまで頑張れよ!」
「ありがとうございます!」
私は笑顔で2人にお礼を言う。私の夢はそこで終わった。