15 心配してくれてありがとう
ゲンブは、見た目は少年で、とてももの静かな人物だ。
怪我も治せるが言葉遣いにうるさく、まるで年寄りみたいなところがある。
そんなゲンブは、ただいま猫又と一緒にお茶を飲んでいる。
「うむ。このお茶はうまいな」
「そうだね。新しく買った甲斐があったよ」
2人が会話をしている中、私はというと落ちこんでいました。
あの村の一件以来、ずっとこんな感じです。
邪鬼を倒した後、私たちは黒いモヤが見えた村長の家に行った。
家に着くともうモヤは消えており、中に入ると村長が倒れていた。
見た目は二十歳くらいだろうか、まだ若い村長だった。
「大丈夫ですか! しっかりして下さい!」
私が体をゆすると、村長の目がゆっくりと開いた。
「うぅ……私は一体……」
「よかった、気がついて。体とか平気ですか?」
「えぇ、なんとも。しかし、ひどい夢を見ていたような……それより、あなたたちは一体……」
私たちはこの村に来た理由を説明した。
「そうですか。わざわざありがとうございます」
「私たちの仕事は終わったから、ここで失礼するわね」
スザクはそう言うと立ち上がり、出口まで歩いていった。そして、こちらを振り返る。
「この村の人間はほとんどいなくなったのだから、あなたも私たちの町に来たらどう?」
「え……?」
「ここの人間は邪鬼に喰われたの。あなたがここにいる理由はないでしょ?」
「スザク、そんな言い方……」
私はスザクの言い方が気になり村長を見ると、驚きと少しほっとしたような顔をしていた。
「村長さん?」
「本当はこんなこと思ってはいけないと思うんですが、実は長としての責任に押しつぶされそうで、とても不安だったのです」
村長は俯いたまま話し始めた。
「皆いなくなってしまったのに、ほっとしている自分がいる。私は長として失格です……」
「まぁ、あなたがどう思おうと勝手だけど、これからのことよく考えなさい」
「……ありがとうございます」
村長は深々と頭を下げた。私は何も言うことが出来なかった。
胸の中が苦しい。それだけはわかる。
私が俯いていると、スザクが戻ってきて肩に手を置いた。
「さぁ、帰るわよことねちゃん」
「……はい」
それから私たちは村を後にした。
私は、来た時と同じようにスザクに抱えてもらい空を飛んでいた。
「あの村長が邪鬼の原因ね」
「そうなんですか?」
「えぇ。多分、長としての責任感に押しつぶされそうになっての不安が邪鬼を生んだのよ」
「あ、そういえば邪鬼は人の負の感情から生まれるって言ってましたよね」
「まぁ、あの村長には荷が重かったということね」
「だけど、もうあの村には村長さんしかいないんですよね。村長さん、1人ぼっちになっちゃった……」
「それからのことは、彼が決めることよ。私たちにはどうすることも出来ない」
「そうですよね……」
私はまた泣きそうになった。すると、スザクが手に力をこめる。
「スザク?」
「ことねちゃんが気にすることないわ。あなたのおかげで彼は助かったのよ」
スザクがなぐさめてくれていることはわかった。私はスザクの胸に顔をうずめる。
「ありがとうございます……」
私たちは町に着き、猫又がいる長屋に帰ってきた。中では、猫又が寝ずに待っていてくれた。
「おや、おかえり。遅かったね」
「……ただいま帰りました」
「あら、ずい分疲れた顔をしているじゃないかい。布団を用意するから早く着替えて寝なさい」
「ありがとうございます」
言われるがまま、私は着替えるために奥に行った。
「スザク、何かあったんだね」
「えぇ、ちょっとね。あと、行く前に言っていた宝石はいらないわ」
「おや、どうしてだい?」
「そんな物なくても、私はことねちゃんの力になるわ」
「それは、どういう心境の変化だい?」
「色々あったのよ。でも、あの子の心が心配だわ」
「それは任せておきなよ。大丈夫、あの子はきっと自分でなんとかするよ」
「えぇ、お願いね」
そして夜が明け、気が付くとスザクの代わりにゲンブがいて、猫又とお茶を飲んでいた。