01 始まりは突然やってくる
月も出ていない夜のこと。私、滝田 ことねは走っていた。
もっと言えば、あるものから逃げていた。
「はぁ……はぁ……!」
息をするのも苦しい。私はくらくらする頭を振って走ることに集中する。
しかし、目の前に家の壁が現れて私は足を止めた。
「ぐぅぅー……」
振り返ると、それはもうそばまで来ていた。
四つん這いで顔に3つの目があり、黒く巨大な化け物・邪鬼がじっと私を見てくる。
「どうしよう……もう逃げる所が無い!」
私は恐怖でその場に尻もちをついた。邪鬼は大きな口を開けてこちらに飛びかかろうとした。
「その娘に手を出すな!」
どこからか声が聞こえたと思ったら、邪鬼を雷が直撃してはじけとんだ。
私は訳がわからず目を丸くする。
「俺たちのそばから離れるなと言っただろう。怪我はないか?」
彼の名はセイリュウ。青髪で長髪を首の所で結んだ長身の男性です。
「は、はい!」
「ならいい。早くあいつらの所へ戻るぞ」
セイリュウはぶっきらぼうに言うと、私に背を向けさっさと歩きだしてしまう。
「ま、待って下さい!」
私は置いていかれないように走り出す。
なぜ、私がこんな目にあっているかというと、それは少し前にさかのぼる。
★★★
いつも通りの学校生活。しかし、その日は違った。
いつものように下校しようとすると、先生から呼び止められた。
「滝田、君は少し残っていなさい」
私は首を傾げた。だって私には居残りする理由はないのだから。
皆が教室を出た後、先生が1枚の用紙を持ってくる。
「これは一体どういうことだ?」
その用紙は私の名前だけ書いてあって、それ以外は真っ白だった。
「どういうことだと言われても、締め切りだったのでそのまま出しました」
「いや、それでも何か書いて出すものだろう」
「だって、やりたいことがわからないんですもん」
私の言葉を聞いて、先生は長いため息をついた。
「それでも、一応書いてから提出しなさい。期限は1週間後だ」
「無茶を言いますね」
「期限をつけていないと、滝田はなかなか決めないだろ? 進学でも就職でもどちらでもいいんだぞ?」
「……わかりました。考えてみます」
「よし、ならもう帰ってもいいぞ。気を付けて帰れよ!」
先生は安心したのか、さっさと教室を出ていった。
「さて、私も帰ろう」
私は帰る準備をして教室を出た。
学校を出ていつも通りの帰り道。私は真っ白な進路の用紙を見ていた。
「どうしようかな、これ……やりたいことなんて、何もないよ」
そう考えていた時に、どこからか声が聞こえた。
「助けて……さみしいよ……」
「えっ! こわっ、誰なの?」
私が辺りを確認すると、古く小さい神社があった。
「あれ? こんな所に神社なんてあったっけ……」
私は恐る恐る鳥居をくぐった。なぜだろう、少しひんやりした風が頬を撫でる。
「なんかここ、怖いな……一応、進路のことお祈りしてそのまま帰ろう!」
さい銭箱に近づいてお金を入れようとした時、奥が急に光りだした。
「なんだろう、あの光……」
私は導かれるように奥に行くと、光っていたのは水晶玉だった。
それに手をかざすと光は強くなり、私はとっさに目をつむった。
しばらくして私は目を開けた。気づいたらその場に倒れていた。
どれくらい気を失っていたのだろうか。私は下校していたことを思い出し飛び起きる。
「やばい! こんな所で寝ている場合じゃなかった。早く帰らないと!」
私は急いで神社を後にして鳥居をくぐると、そこは私がさっきまで通っていた道ではなかった。
一面に広がる草原。しかも、外は夕方ではなくお昼のように太陽が上にあった。
振り返ると、あの古く小さい神社がそこにあった。
まるで、昔からそこにあったかのように。私は呆然と立ったままぽつりと呟いた。
「どこよ、ここ……」