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第六章 第五話

 夕食の席で、

「姉ちゃん、明日は(うち)にいるか?」

 俺は姉ちゃんに訊ねた。

「なんで?」

「いや、別に……」

「明日は拓真君が来るからミケと一緒にお茶を飲むのよ」

 母さんが姉ちゃんの代わりに答えた。


 ミケはお茶飲まないだろ……。


 まぁミケを囲んで母さんと姉ちゃんが拓真とお茶をするというなら家にいるという事だ。


「父さんも家にいるんだよな?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「あ、いや、明日は秀達が来るからうるさいと思うかなって」

「秀君達が来るのはいつもの事だろ」

「新しい友達も一緒だから」

 俺がそう言うと父さんは別に構わないと言うように頷いた。

 これなら祖母ちゃんは全員の姿を見られそうだ。


 夜、俺達は寺の前に向かった。

 近くまで行った時、悲鳴が聞こえた。

 俺達が駆け出す。

 角を曲がると寺の門の上に巨大な蜘蛛がいた。

 今まさに人を喰ってるところだった。


「げっ……」


 気持ち悪い……。


 別に蜘蛛の見た目が苦手なわけではないが、それでもあれだけ大きいと流石に気持ちが悪い。

 しかも人が喰われているのだ。


「繊月丸!」

 日本刀の姿になった繊月丸を高樹が手に取った。

 高樹が蜘蛛に向かって駆け出す。

 門の上では繊月丸では届かないのではないかと思ったら高城は翼を出して飛び上がった。


「すごい……」

 秀が呆気に取られたように言った。

 以前にも飛んでる姿は見たが、それでも驚いてしまう。


 服の上から羽が生えてる事に。


 高樹が蜘蛛に斬り付ける。

 蜘蛛が巨体からは想像も付かない速さで()けると門の向こうに消えた。

 俺は急いでアーチェリーのケースを開いた。

 アーチェリーに弦を張って矢を掴むと門に駆け寄る。


「高樹、こっちに来るようにしてくれ!」

 俺は矢をつがえながら高樹に声を掛けた。

 いくら神泉で清めた矢とは言っても壁や門を突き抜ける事は出来ない。

 と言うか、それ以前に見えなければ狙いを付けられない。


「大森、門から離れろ!」

 高樹の声に俺が門から離れるのと蜘蛛が飛び出してくるのは同時だった。

 俺がたった今までいた場所に蜘蛛が着地した。


 俺は反転して蜘蛛に向かって弓を構えた。

 蜘蛛が俺に向かって突進してくる。

 予想以上の速さに弦を()ききる事が出来ない。


 ヤバい!


 そう思った瞬間、高樹が蜘蛛を後ろから斬り付けた。

 どうやら切っ先が届いたらしい。

 蜘蛛が怒って身を(ひるがえ)すと高樹に向かっていく。


 俺はその後ろ姿目掛けて矢を放った。

 矢が蜘蛛の身体を貫く。

 だが致命傷ではなかったらしい。

 蜘蛛がこちらを向こうとした。

 すかさず高樹が蜘蛛に斬り付けようとする。

 蜘蛛が後ろに飛び退()く。

 そのまま蜘蛛は塀を跳び越えようとした。


 高樹が蜘蛛の退路を(ふさ)ぐように塀との間に割って入り繊月丸を振る。

 切っ先は届かなかったようだがそれでも蜘蛛の前脚の先が潰れた。


 流石(さすが)骨喰(ほねばみ)」と呼ばれるだけはあるな……。


 俺は矢をつがえて蜘蛛に狙いを定めようとしたが、巨体の割りに素早い。

 もっと小さかった鬼の方が遅いくらいだ。

 蜘蛛は道路に跳びさすると、俺達の方を向いて牙をがちがち鳴らす。

 俺は思わずたじろいだ。

 あの牙でついさっき人を喰っていたのだ。

 と思った時には蜘蛛が目の前に来ていた。

 蜘蛛が足を振りかぶる。


 しまった!


「孝司!」

「大森!」

 秀と高樹が同時に叫んだ。

 振り下ろされた足を見て覚悟を決めた瞬間、何かが蜘蛛の足にぶつかった。

 足の先がごく(わず)かにズレて俺を(かす)め脇に突き立った。


「ミケ! すまん! 助かった!」

 動きの止まった蜘蛛目掛けて高樹が急降下した。

 蜘蛛が飛び退()き、ぎりぎりのところで繊月丸の切っ先は届かなかった。

 高樹はすぐに身を翻すと蜘蛛に向かって繊月丸を振った。

 届いていなくても蜘蛛の牙の片方が吹き飛ぶ。


「ーーーーー!」

 蜘蛛が声にならない怒りの声を上げた瞬間、俺は矢を放った。

 矢が蜘蛛の頭を貫く。

 頭部が消えた蜘蛛の身体がその場に倒れた。

 やがて蜘蛛の身体が消えた。

 俺達は安堵の溜息を()いた。


「孝司、早く弓をしまって。車が立ち往生してるから幻覚解くわよ」

 祖母ちゃんの言葉に慌ててアーチェリーをケースにしまった。

 蓋を閉めると同時に渋滞していた車が走り始める。


 同時に妖奇征討軍の二人もやってきた。

 狐につままれたような表情で辺りを見回している。


 ミケは祖母ちゃんの幻覚の中に入ってこられたのに妖奇征討軍(こいつら)は入れなかったのか……。


 俺は呆れて妖奇征討軍を見てから慌ててミケの方に目を向けた。

 ミケはとっくに姿を消していた。

 俺達は顔を見合わせると妖奇征討軍に構わず家路に()いた。


四月二十九日 水曜日


 翌日、秀達が俺のうちに遊びに来た。

 大して広くない家だから祖母ちゃんが父さん達に初対面の振りをして挨拶した後、秀達を俺の部屋に連れていこうと思ったのだが、繊月丸を見た母さんと姉ちゃんがここにいろと勧めるので雪桜と繊月丸は居間に残り、俺は秀と高樹、それに祖母ちゃんと共に部屋に向かった。

 拓真はミケに何やら話をしていた。


四月三十日 木曜日


 休み時間になると高樹がやってきた。


「またか……て言うか、増えてないか? 儀式跡は浄化されたのになんで増えてるんだ?」


 もしかして、あいつらまたやったんじゃ……。


「高樹君、化生の話の時だけは相手にしてくれるから」

 雪桜が俺の耳元で小声で囁いた。


 ああ、なるほど……。

 女子は口実探しに血眼(ちまなこ)になってるのか……。


 雪桜とはそんな事をするまでもなく普通に話せるし、なんなら雪桜の方から話し掛けてくるからネタを探そうなんて考えた事がなかったので思い付かなかった。

 高樹と話が出来るからと言う事で、今までなら聞き流していたような噂まで報告してくるようになったのだ。


 そこまで必死になって見付けてこなくても()いんだが……。


「それで? 今度は?」

「また神田川だそうだ」

 おそらくこの前と同じ場所だろう。

 水のある場所ならどこにでもいたと言うからトイレに出てこないだけでもマシと言う事か。


 俺達は女子トイレに入るわけにいかないしな……。


 ていうか昔は厠にもいたって事は、トイレの花子さんってもしかして河童なのか?


「なら今日の放課後、祖母ちゃんに聞いてみよう」

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