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第五章 第二話

 俺は咄嗟(とっさ)に繊月丸を(かば)って押し倒した。

 際どいところを馬が通り過ぎていく。

 背中に風を感じた。

 それも突風を。


 俺は顔を上げて走り去っていく馬を見た。

 とても絵とは思えない。

 これだけ本物に似てるなら出てきてしまっても不思議はないのかもしれない。


 不意に袖を引かれた。

 繊月丸だ。


「どうした?」

「あれ、うちにあった絵の馬だよ」

「え、じゃあ、秋山さん()にあるのか!?」

 俺が訪ねると繊月丸が頷いた。


「そういえば秋山さん()、最近荒らされたって……」

「あっ、それ、俺も聞いた」

 俺も秀の言葉を聞いて思い出した。

 秋山さんが亡くなった後、家が空き家になったせいか最近誰かが壁を壊し部屋の中を荒らしたと母さんが話していた。

 俺はそれを皆に話した。


「馬が出入り出来るほどの大穴が壁に開いてるなら鍵とかは考えなくていいよな」

「出入りするところさえ見られなければいいだけだな」

「油性ペン一本で終わるね」

「繊月丸、置いてある部屋は分かるか?」

 俺の問いに繊月丸が再び頷いた。

 すぐに行こうとしたのだが、白狐に絵に馬がいない時に行っても手綱は描けないと言われたので明日行く事になった。


四月二十二日 水曜日


 放課後、祖母ちゃんと合流し、秋山さんの家に向かっている時ファーストフード店の前を通り掛かった。


「げっ」

 店の中に山田の姿が見えた。

 俺は秀と高樹の腕を掴むと山田に見付かる前に急いで通り過ぎた。


 俺達は繊月丸の案内で絵の前まで来た。

 祖母ちゃんは一緒だが、頼母や白狐は自分達が出向くまでもないというし、実際、絵に手綱を描き込むだけなら助けを借りる必要はないだろう。


「これ」

 繊月丸が絵を指す。

「よし、早いとこ済ませよう」

 高樹が鞄の中から油性ペンを取り出した。

 その時、

「待って!」

 秀が慌てて高樹の手を押さえた。


「なんだよ」

「マズいよ、この絵……」

 秀がスマホ画面を俺達に向けた。

 目の前の絵が映っている。

「何がマズいんだ?」

「これ、文化庁の公式サイトだよ」

「え?」

「この絵、文化財の行方不明リストに載ってる」

「え……?」

「文化財に油性ペンで描き込むのはマズいんじゃない?」

 秀の言葉に俺達は顔を見合わせた。


「けど、放っておいたら馬が暴れ回るんだろ」

「そうだけど……行方不明だった文化財が発見された時に落書きがあって、その犯人が俺達だって知られたら……」

「社会的に抹殺されかねない……か」

 高樹が考え込んだ。

「今までは出てこなかったんだからあの儀式のせいだよな。ならこの絵が遠くへ運ばれれば出てこなくなる可能性があるって事か?」


 例えば上野の東京国立博物館とか……。


「いつ運び出されるんだ?」

「行方不明リストに載ってるって事は、まず発見してもらわないと……」

「確か、告知とかして何ヶ月か申し出がないか待ってからようやく国の物になるって言ってたよな」

 高樹が俺に訊ねる。

「法律とかの事はよく知らないから……そんなような話を聞いたってだけで……」

「となると当分ここに置きっぱなしって事だよな」

 高樹の言葉に俺達は考え込んだ。


「バレなきゃいいんでしょ。入るのは見られないようにしたし、出る時も気付かれないようにすれば……」

「万が一、犯人捜しって事になって指紋でも採られたらどうすんだよ」

「犯罪でも起こさない限り指紋なんて採られないでしょ」

「どうかな」

 秀が考え込む。


「今は生体認証で指紋使うし……指紋じゃなくてDNAだけど、民間会社のデータベースを警察が利用して犯人見付けたって言う事件があったよ。アメリカだけど――」

 今後、生体認証で指紋が必須になり、その上で警察が民間会社に登録されているデータを利用して犯人捜しをするという可能性がないとは言えない、と秀が言った。

 DNAのデータベースを利用して解決した事件は殺人事件で、絵の落書きの捜査に民会会社の利用は考え(づら)いが別の事件が起きてこの絵から指紋を採ることになる事は十分有り得るというのだ。

「仕方ない、白狐に相談しよう」

 それまでは被害が最小限で済むように祈るしかない。


 帰る途中、海伯と会った。


「よっ!」

 海伯が手を上げた。

「浮かない顔してどうした?」

 その問いに俺達は顔を見合わせた。

 海伯も化生なのだからいいアイデアがあるかもしれない。

 俺は海伯に事情を話した。


「作者は分かるか?」

 海伯の問いに秀がスマホを見て名前を告げる。

「雨月、降ろしてやれよ」


 降ろす?


 俺は海伯の言葉に首を傾げた。


狐憑(きつねつ)きって言うのは降霊術じゃないのよ。狐を()かせるんだから人間は降ろせないわよ」

狩野派(かのうは)は弟子が多かっただろ。弟子の中に狐の一匹や二匹いたんじゃないのか? 弟子を見付けたらどうだ?」

 海伯の言葉に祖母ちゃんは少し考えてから首を振った。

「その場だけ誤魔化せれば後でバレても()いならともかく、バレないほどの達者となると狐憑きで降ろせる狐にはいないわね」

「やっぱ白狐の知恵を借りるしかないか」


 最悪、社会的抹殺覚悟で俺達の誰かが描く羽目になる事も考慮(こうりょ)に入れておこう……。

 青春や高校生活どころか、まともな社会生活すら送れなくなる可能性があるのか……。

 万が一そんな事になったら妖奇征討軍を呪ってやるからな……。

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