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第三章 第七話

「けど大マムシって呼ぶのもな」

 高樹が俺の気持ちを代弁するように言った。

 表情からして秀も同じ思いらしい。


「なら頼母(たのも)でいいでしょ」

「だから井上家の当主など……」

「頼母なんて名前、()いて捨てる程いたじゃない。第一頼母(たのも)が当主になった頃には住み始めてから百年以上()ってたんでしょ」

 綾の言葉に大マムシが黙り込んだ。

 ありふれた名前と言っても〝頼母〟という名前が出てきたのは当主の一人が井上頼母だったからなのだからなのだから、少なくとも祖母ちゃんが提案した〝頼母〟の由来は井上家の当主だと思うのだが。


 まぁ大マムシよりはマシか……。


 というか井上頼母がいつ頃の人かは知らないが、江戸時代にその人が当主になった時点で百年以上経ってたなら今は最低でも二百五十年歳以上のはずだ。

 頼母は高樹に目を向けた。


「そこもと、剣の使い方がなっておらぬな」

「そりゃ、今は大小(だいしょう)()して歩いたりしないから」


 それ以前に高樹は武士じゃないだろ……。


「教えてやってよ。その子は(ぼう)――」

(のぞむ)だ」

 高樹が訂正する。

「――朔夜の息子よ」

 祖母ちゃんは気にした様子もなく続けた。

 頼母は少し考えた後、頷いた。


「まぁ、良かろう。一応武芸十八般(じゅうはっぱん)(たしな)んでおる故な」

「武芸十八般って弓術も入ってるわよね?」

「そうだが――」

 頼母が俺のアーチェリーに視線を向けて、

「――それは洋弓であろう。洋式の弓は分からぬな」

 と言った。

 なんだかよく分からないうちに高樹は頼母に剣術を教わる事になってしまったようだ。

 俺はさっき放った破魔矢を探し出して拾った。

 一本千円もする矢を使い捨てにするわけにはいかない。


 高樹が、

「帰るか」

 と言ったのを()に、俺達は神社を後にした。


「ではな」

 頼母はそう言って帰っていった。

 今でも小石川の辺りに住んでいるのだろうか。


「繊月丸、人間の姿になってくれ」

 高樹が言うと繊月丸は人間の姿になった。

「繊月丸はどうするの?」

 秀が訊いた。

「高城の家に連れてくのか?」

 俺がそう訊ねると高城が困ったような表情を浮かべた。

 突然少女を連れてこられても高城の母親も困るだろう。

 かといって日本刀を部屋に置かれても不安を覚えるに違いない。


「私と一緒に来ればいいわ」

 祖母ちゃんがそう言うと繊月丸が頷いた。


 勝手に神社に住み着いていいのかよ……。

 ホントに(ばち)は当たらないのか?


 高樹と俺は秀の家に泊まってることになってるので、秀の家に向かった。

 祖母ちゃんと繊月丸とは近くの神社で別れた。


 家の人たちを起こさないように静かに秀の部屋に入る。

 秀の部屋には俺達の分の布団も引いてあった。

 俺は秀の心遣いに感謝しながら布団に倒れ込んだ。


 しかし秀の家では俺達が泊まっていることなど知らないのだから、秀の家族が起き出す前に家を出なければならない。

 もう深夜を大分過ぎているから眠れるのは二、三時間だ。

 明日――もう今日か――は寝不足で、眠くて仕方ないだろうな……。

 そんなことを考えながら眠ってしまった。


四月十四日 火曜日


 早朝、目覚まし時計は容赦なく俺達を叩き起こした。

 家族が起き出す前に高樹と俺は自宅へ戻った。


 家族を起こさないようにこっそりと自分の部屋に入る。

 部屋にはミケも幽霊もいなかった。

 今は朝だということもあるが、ミケがいない時は幽霊も出ないと言うことは小早川はミケと行動を共にしているのだろうか。

 だとしたらそれほど怖がる必要はないのかもしれない。

 少なくとも取り()かれる可能性は低いのではないだろうか。

 そうはいってもやっぱり怖いことは怖いのだが。


 朝食の時間になり階下に降りていくと母さんは驚いたようだったが朝ご飯を用意してくれた。


「秀君と喧嘩でもしたの?」

「まさか。着替えも鞄も持ってかなかったからだよ」

 俺の答えに母さんは納得したように頷いた。


 さすがに二、三時間の睡眠はキツい。

 眠い目をこすりつつ学校へ向かった。

 途中で秀、雪桜と合流する。

 秀も眠そうな顔をしている。

 雪桜も何故か眠たそうだった。


「お前はゆっくり寝たんじゃなかったのか?」

「こーちゃん達が心配で眠れなかったよ。結局どうなったの?」

 秀と俺は夕辺のことを雪桜に話した。


 神社の前を通り掛かった時、繊月丸が出てきた。

 鞠の柄の着いた赤い着物を着て黄色い帯をしている。


「どこに行くの?」

 繊月丸が訊ねてきた。

「可愛い! この子、知り合い?」


 昨日は見えてなかったのか……。


 どうやら今は姿を現しているから見えるようだ。


「繊月丸だ」

 雪桜にそう言ってから、繊月丸に、

「学校だよ」

 と答えた。

「学校って何?」

「勉強するところだよ」

「勉強って? 一緒に行ってもいい?」

「姿を消せば来てもいいぞ。けど学校では話し掛けてくるなよ。話し掛けてきても答えないからな」

「うん!」

 繊月丸は嬉しそうに後から()いてきた。

「あ、消えちゃった」

 雪桜が残念そうに言った。

 どうやら姿を消したらしい。


 学校に着くと例の白い着物の女の子が教室にいた。

 繊月丸と白い着物の女の子はすぐに仲良くなった。

 考えてみたら白い着物の子は周りに大勢の人間達がいるのにずっと話し相手もなく独りぼっちだったのだ。

 きっと淋しかったのだろう。

「……それで……」「……だから……」「……でね……」

 二人のお喋りを訊くともなく訊いていると、また視線を感じた。


 またか……。


 辺りを見回してみたが誰が見ているのか分からない。


 俺は誰かに恨みを買うようなことでもしたか?


 覚えはないが、大抵の場合、加害者は被害者のことを覚えてないものだ。

 しかし、それでもやっぱり身に覚えがない。

 それとも好意を持ってくれている誰かだろうか。


 女の子だとしたら可愛い子がいいな。


 虫が良すぎるというのは分かっているが、やはり好意を持たれるなら可愛い子がいい。

 秀にも彼女が出来たのだ。

 俺にだってそろそろ出来てもいいはずだ。


 まぁ、高樹にもまだ彼女はいないが。

 高樹にまで彼女が出来てしまったら大打撃だ。

 当然高樹もそう思ってるだろうから、これは競争だ。

 だから視線の主は俺に好意を持ってる可愛い子がいい。


 ……いや、やっぱりダメだ。


 俺が好きなのは雪桜だ。

 他の子に乗り換えるのは雪桜に振られてからだ。


 でも、やっぱり……。


 考え込んでいるうちに放課後になった。


 俺は秀や高樹、繊月丸と共に帰路に()いた。


「繊月丸も来てたのか」

 高樹が言った。

「学校がどういうところか知りたいって言うから連れてきたんだ」

「そうか。まだ見られてるな」

「そうなんだ。私にはよく分からないんだけど」

 雪桜が振り返りながら言った。


「繊月丸ちゃんがいるの?」

 雪桜の質問に繊月丸が姿を現したらしい。

「あ、繊月丸ちゃん」

 雪桜が繊月丸に笑顔を向けた。

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