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第三章 第三話

四月十二日 日曜日


 俺達は秀の家で宿題をすることになった。

 宿題の難易度が高すぎて高樹と俺にはお手上げだったので秀と雪桜に教わる事になったのだ。

 雪桜と高樹と俺はほとんど同時に秀の家に着いた。


 俺は秀の家の鍵を開けた。

 幼稚園の時から遊びに来てるし、よく泊まってるから半分自分の家のようなものだ。

 雪桜と俺は秀の家の鍵を持っているし、雪桜と秀も俺の家の鍵を持っている。

 もちろん、秀と俺は雪桜の家の鍵を持っている。


 俺は勝手にドアを開けて入っていった。

 雪桜と高樹が続く。

 廊下を通って階段を上がり、秀の部屋のドアを開けた途端、秀と祖母ちゃんがキスしているのが目に飛び込んできた。

 俺が慌ててドアを閉める。


「帰ろう」

 俺は動転して言った。

「そ、そうだな」

 高樹も動揺した様子で頷いた。

「え? どうして?」

 雪桜は小柄だし俺達の後ろにいたせいか中の様子が見えなかったらしく不思議そうな顔で訊ねてきた。

 その時、ドアが開いた。


「ゴメンね。まだ来ないと思ってたから。さぁ、入って」

 秀は照れくさそうに言った。

 高樹と俺は顔を見合わせた。

「こーちゃん、高樹君、早く入ってよ」

 俺と高樹は秀と雪桜に挟まれる形で身動きが取れなくなった。

 結局、高樹と俺は中に入り、雪桜が後に続いた。


 宿題は(はかど)らなかった。


「ほら、こーちゃん、そこ。今言ったばかりでしょ」

「すまん」

 俺は雪桜に謝って、間違えたところを消した。

 友達がキスしているところを見てしまうのと、家族がキスしているところを見てしまうのと、どちらがより衝撃を受けるだろうか。

 両方だった俺のショックは間違いなく二倍だが。

 しかし高樹の狼狽(ろうばい)ぶりは友達のキスを見てしまったと言うことでは説明が付かない。


 もしかして高樹は……。


「こーちゃん、そこ、全然違うよ」

「あ、わり」

 そんな感じでやっていたので昼過ぎまで掛かってしまった。


 高樹も似たようなものだった。

 何度も間違いを指摘され、その度に直していた。


 昼までやっても終わらなかったので秀の家で昼食をご馳走になることになってしまい、高樹は盛んに恐縮していた。

 雪桜と俺は慣れていたので大して気にしなかった。

 雪桜の家に行くことはあまりないが、秀や雪桜が俺の家で食べていくことは珍しくない。

 秀も雪桜も両親が共働きなので、子供の頃はよくうちに預けられて夕食を食べていった。

 俺の両親が出掛けるときは、俺も秀や雪桜の家に預けられた。だからお互い様なのだ。


 ようやく英語の宿題が終わり俺達は秀の家を辞去(じきょ)した。

 祖母ちゃんだけ秀の家に残った。

 秀の家を出たところで俺は高樹を呼び止めた。


「悪い、雪桜は先に帰っててくれ」

 俺がそう言うと、

「うん、それじゃあ」

 雪桜は手を振ると帰っていった。

「何か用か?」

「間違ってたら悪いんだが……お前、もしかして祖母ちゃんのこと……」

 高樹は黙り込んだ。


 勘違いだったのかと心配になってきた時、

「……そんなにバレバレだったか?」

 ようやく高樹が口を開いた。

「いや、さっき分かった。雪桜は多分気付いてないと思う」

「そうか」

「元気出せよ。祖母ちゃんは化生(キツネ)なんだぜ」


 あまり励ましになってないような気もするが……。


「サンキュ。俺のことは気にしないでくれ。俺も化生より人間の方がいいしな」

 高樹はそう言うと、

「それじゃ」

 と言って帰っていった。


 好きな人――〝人〟ではないが――のキスシーンを見てしまったんだから高樹は(つら)いだろうな。

 こんな形で失恋するとは思ってもいなかっただろうし。


 まぁ、高樹と知り合った時は、既に秀と祖母ちゃんは付き合ってたから最初から横恋慕だったのだが……。


 俺が帰ろうと踵を返した時、祖母ちゃんと目があった。

 いつの間にか祖母ちゃんが家の外に出てきていたのだ。


「祖母ちゃん、今の……」

「聞くまでもなく気付いてたわよ」


 まぁ、人生経験は俺達より長いわけだしな……。

〝人〟ではないが。


「そうか。それでどうするんだ?」

「どうもしないわよ。どうしようもないでしょ」

「それもそうだな。じゃ」

 俺はそう言って家に向かった。


四月十三日 月曜日


 翌日、俺は誰かに見られているのを感じていた。

 俺は人ならざるものが見える以外、(いた)って普通の男子生徒だ。


 俺に想いを寄せている女子生徒が柱の陰から見付めているとか?


 とても有り得そうになかった。

 俺もそこまで自惚(うぬぼ)れてはいない。


 だとしたら誰だ?


 秀に訊ねてみると、

「ああ、そうか。視線だったんだ」

 なんか違和感あるなって思ってたんだ、という答えが返ってきた。


 D組に行って高樹に聞いてみると、

「木曜くらいから見られてるような気がしてたんだ。お前らと別れたら感じなくなったから気のせいかと思ってたんだが」

 と答えた。


「え? 視線? 全然気付かなかった」

 雪桜は知らないというように首を振った。


 俺はひとまず視線の主を無視することにして拓真を捕まえると教室の隅に連れて行った。


「大森君、どうかした?」

「お前、小早川の写真持ってないか?」

「え? ど、どうして?」


 この慌てっぷりは持ってるんだな……。


「見せてくれ」

「どうして?」

「ミケの前の飼い主を見てみたいんだよ」

 拓真が俺の口実に納得したのかどうか分からなかったが写真は見せてくれた。


 やっぱり……。


 あの幽霊は小早川だった。

 てっきり隠し撮りかと思ったら小早川の自撮りだった。

 小早川がミケと一緒に撮ったものを猫の写真がほしいと言う名目で貰ったそうだ。


 拓真(こいつ)の場合、完全に口実とは言い切れないのが……。


 小早川も拓真が重度の猫オタと言う事を知らなければ特別親しいわけでもない男子に写真を渡したりはしなかっただろう。


「サンキュ」

 俺はそう言うと拓真を放してやった。

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