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81、機械化とは人の仕事を奪うこと。

 ザードに製薬会社を設立する話が決まってから二週間後、俺はジェームズから提供された土地に建物を設置し、その中に設備一式を搬入した。


 ひとまず会社としての土台はできたが、これからが大変だ。


 製薬会社を設立するにあたって、幾つかの問題がある。


 今日はその問題解決のためにジェームズの屋敷にリリと来ており、ジェームズの執務室で執事のレディアーノさんが淹れてくれた紅茶を飲みながらの会議となる。


 いつもなら俺の隣にはリリが座っているが、なぜか本日はジェームズの奥さん、キャロライン公爵夫人と公爵令嬢のマリーナとともに、ザードの街に買い物に出掛けてしまった。


 よって現在執務室には俺とジェームズがテーブルを挟んでソファーに座り、ジェームズの後ろにレディアーノさんが立っていて、相変わらずピクリとも動かない。


 毎回思うが異世界の執事やメイド、そして護衛騎士の人達が主人の後ろに立つ時は微動だにしない。


 あれって罰ゲームだと思うのは、俺だけだろうか?


 話を製薬会社設立の問題点に戻すが、一つ目の問題は異世界人と地球人の遺伝的な違いだが、これは製薬会社設立前にリリのDNAを検査して分かったことだが、不思議な事に異世界人と地球人のDNAほぼ百%一致した。


 しかもお互いに同じ腸内細菌や抗体を持っていたりと、調べれば調べるほど異世界人と地球人の違いが見つからない。


 もしかしたら異世界人と地球人は同じ先祖をもつ、広い意味での兄弟みたいなものかもしれない。


 まさに人類皆兄弟である。


 二つ目の問題は、薬の製造に必要な知識が異世界人にないことで、これに関しては最初の数年間は日本人の研究者を雇い入れ、実際に異世界人に学んでもらうしかない。


 俺はリリやカインの街の住人を見ていて思ったが、異世界人は想像以上に真面目な性格で努力家だ。そして、物覚えが極端に優れている。


 例えば、リリは数か月で日本語を理解したし、街のお爺ちゃんはちょっとした時間でトラクターを乗りこなしていた。


 他にも製鉄工場で働く人々や繊維工場で働く人達も、直ぐに機械の使い方を理解して今では使いこなしている。


 勿論複雑な部分は未だ日本人の助けが必要となるが、それでも驚異的なスピードで理解していることも事実で、近い将来日本人の助けは要らなくなるかもしれない。


 三つ目の問題は、医師や薬剤師の存在だ。


 例えば頭痛がする患者に、腹痛の薬を処方しても効果は期待できないし、それどころか余計に頭痛が悪化するかもしれない。


 このような間違った薬の使い方を避けるためにも、医師の存在は重要となる。


 そして副作用などの問題からも、薬の専門家である薬剤師が重要となる。


 そこで俺は、ザードの街に医療専門学校の設立をジェームズに提案した。


 講師には日本人を雇い入れ、学ぶ者はジェームズやステファニー様、ローレル宰相やギルバート様にお願いすれば問題ない。


 ジェームズとの話し合いの結果、医療専門学校では医師学科、薬剤師学科、薬剤研究開発学科の最低三つの学科を学ばせるつもりだ。


 まぁ、医療関係なんて俺が知るわけないから、取り敢えず日本の行政を見習うことにした。


 つまり簡単に言えば箱物は俺が作って、後は第三者に丸投げというわけだ。


「大翔、医療関係もありがたいけど、あのトラクターとかいう乗り物も貸してくれないか?」

「えっ、今の季節だと必要ないだろ?」


 帝国は王国よりも北の方にあるため、既に雪がちらちらと降っておりトラクターを必要とする季節ではない。


「それはそうだが、多くの農家がトラクターを使いたいと考えることは必然で、早めに練習をさせたてやりたいのだが、ダメかな?」

「練習か…… 」

「ダメでしょうか?」

「そうじゃなくて、トラクターの数に限りがあるから一軒一軒の農家が覚えるんじゃなくて、そうだな、例えばトラクターを使える人が、各農家の畑を順番に耕すようにすれば、全ての農家が覚える必要はないと思うのですが」

「なるほど、農家からはトラクターのレンタル代と人工(にんく)代を請求すれば良いのか」

「そうですね、その方が効率が良いと思います」


 異世界では昔の日本のように地主と小作に分かれており、土地を持つ地主(領主等)が小作(領民)を使って作物を育てている。


 つまり俺が経営する会社(アスク)と、地主がトラクターを人工込みのレンタル契約をすることで、地主側は大量の畑を耕すことができるし、会社(アスク)は利益を得られる。


 お互いに利益が得られるが、一つだけ問題がある。


「それだと農家の仕事が無くなってしまい、収入を得ることのできない農家が増えると思うが」


 ジェームズの言う通りだ。


 現在異世界の農作業は全て手作業で、そのため農作業に掛かる経費の殆が人件費となる。


 そこにトラクター等の機械を導入すれば作業効率が良くなり、当無駄な人件費が掛からなくなった分利益は上がるが、半面農家の仕事が無くなってしまう。


 つまり農家の仕事が機械に取って代わる事で、職を奪われ路頭に迷う人が大勢出てくると考えられる。


 機械化の流れは人の仕事を奪う所から始まるため、必然的に労働者を必要としなくなるからだ。


「実際に職を失う人が増えると考えられます。ですが…… 」

「ですが、とは、なんだ。何か解決策があるのか?」

「職を失った人には、新たな職を提供すれば良いのです」

「だが、そう簡単に職は作れないぞ」

「そうですね。ですから俺の方で新たな工場を作り、そこで社員として雇いたいのですが」

「おぉ、どんな工場を作るつもりなんだ?」

「そうですね、ガラス関係の工場を作ろうかと、考えております」


 俺が知る限り、異世界の建物の窓は全て雨戸と言っても良い。そのため建物の中は昼間でも暗く、常時蝋燭が必要な部屋も在るほどだ。


 更に日の光の射さない部屋はカビが生えやすく、衛生的にも良くない。


「ガラスなんて、コップか皿くらいしか役に立たないだろ。たまに芸術的なのもあるが、そんなに需要はないだろ」

「そうですか? ジェームズはカインの建物のほぼ全てに、ガラスが使われていたことを覚えていますか?」

「そういえば、なにやら透明な壁が…… あれがガラスか!」

「その通りです」

「あんな巨大で平たいガラスが、ザードでも作れるのか?」

「勿論です。ガラスの原料となる珪砂(砂)やソーダ灰(岩塩)、そして石灰石となります。珪砂と石灰石は既に手に入れたので残るは岩塩だけだったけど、この前石灰石を手に入れた時に岩塩の地層も偶然発見したので、原料は全て確保済みです」

「そ、それなら! すぐにでも工場が建てられるのか?」

「いえ、工場となる建物も必要となりますが、ガラスを製造する機械も手に入れなければならないので、もう少しだけ時間が掛かります」

「そっか。領民の為にいろいろと考えてくれて、感謝する」

「当然のことです」


 よし! ガラス工場が出来れば建築に大きな変革が起きるうえ、お酒やビールなどの容器としても使える。更に医療関係等の研究機関でもガラスは重宝されるので、今後の産業発展に大いに役に立つはずだ。


 他にもザードには工場を作るつもりだが、今後は他の産業とのバランスを考えながら徐々に増やしていくつもりだ。


「ただいま」

「お兄ちゃん、ただいま」

「「おかえりなさ」」

「美味しそうな屋台が出てたから沢山買ってきたけど、今から夕食にして良い?」

「それは助かる。お腹が空いてしょうがなかった。大翔、今日は泊っていけ」

「アハハハハ。それは公爵夫人に迷惑になるでしょうから、遠慮させ…… 」

「あら、別に良いわよ。マリーナもリリさんと離れたくないみたいだから、泊ってくれたらマリーナが喜ぶわ。ねぇー、マリーナ」

「はい、お母さま」


 どうしようかと思いリリに確認しようと思ったが、既にマリーナがリリに抱きついており、彼女は諦めた表情で微笑んでいた。


 これは、もう逃げられないな。


「ジェームズ、美味い酒があるけど、飲むか?」

「良いね、それなら私も美味い酒の肴を提供しよう」

「おいおい、つまみは既に沢山あるだろ」

「良いじゃないか、そうだレディアーノ、お前も飲め」

「えっ、宜しいのですか?」

「あぁ、勿論良いぞ。そうだ、リンダ、君達も飲まないか?」


 えっ、リンダってメイドなんだけど、良いのか?


「宜しいのですか?」

「あぁ、たまには良いだろう」

「それなら俺も、屋敷の方からロザンヌさん達を呼んでも良いかな?」

「あぁ、呼べ呼べ、今日は宴会としよう!」


 なんとも貴族らしからぬ行動だと思うが、キャロライン公爵夫人が楽しそうにしてるから問題ないだろう。


 それに俺自身、いつもお世話になっているロザンヌさん達と飲めるのは、正直嬉しい。


 ジェームズの了解を得た俺は、さっそくロザンヌさん達を呼び寄せると、アイテムボックスの中から沢山のお酒を取り出し、それらをテーブルに並べると大宴会が始まった。


応援のブクマや評価、いいね、本当にありがとうございます。


大変励みになっております。


これからも応援、よろしくお願いします。

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